draMAGICAL!! 3☆☆





今日一日、散々だった。
家(ボロアパート)に帰宅した途端から溜め息しか出てこない。
朝寝坊、会社までの道を走っていたらウイルスとトリップに遭遇、と同時に転んで両ヒザを擦りむくは、足首に激痛が走るは、そのまま足引きずって会社に到着したら怒鳴られて、お昼食べようとしたらカバンに財布入ってないことに気付いて、同僚がそんな私に気づかいパンを一つ恵んでくれたけど何故か賞味期限が切れていて、それでも食べたらちょっとすっぱい味がして、案の定腹痛を起こして、それ以上に時間を重ねるごとに右足首が痛みを増して……。
今日という日を超絶ミラクル厄日ふざけんなDAYと名付けよう。

約百回目のため息をつきながら足を見れば、擦りむいた両ヒザが痛々しい。
会社で消毒と手当てをし、血がしみ込んでも大丈夫なように分厚めのガーゼを当てテープで止めた。
そのガーゼを先ほど取ってみれば、ガーゼの繊維と血が混ざり気持ち悪いことになっている。
当分はヒザまで隠れる服を着ないとな。お風呂入ったらしみるだろうな……はぁ。

そして右足首の痛みが本当にひどい。
持続的に痛みがともない何をするにも気をとられてしまう。
足を引きずらせ何とか帰宅したが……病院へ行くべきなのかな。
だってこれ、異常なまでにおかしな形で腫れている。
現在は七時過ぎ。確か診察の受付けが六時までだったような。行くなら明日の朝ね。
でもなぁ、今日遅刻したから明日は普段通り出勤しないと冷やかな目で見られそうな気が…………。
どぅああああああもう!!!
だいたい、こんなことになったのは全部蒼ちゃんと紅ちゃんのせいだ!
昨日あんな変な呼び出しさえなかったら遅刻もせず普段通り過ごせていたはずなのに!
……だめね、人のせいにしちゃいけない、大人になろう。大人だけども更に大人になろう。
あれやこれや考えていると夕飯を作る気になれず、買い置きしてあったカップラーメンに今お湯をそそいだところだ。
お湯をそそぎ三分で完成!これを発案した人は本当に天才だ。ありがとう!たまにこういうのを食べると美味しいんだよね!

三分が経ちフタを開けていたらコイルが鳴り響いた。うわ、蒼ちゃんからの電話だ。
もうこれ無視していいよね。ちょっと今あなたとお話しする気になれないよ。はい、ごめんねー。
コイルを鳴りっぱなしで放置し、再びカップラーメンに向き合う。

「いただきます!」

この湯気の香り、最高!
たまらず一口食べたら幸せな気分になった。
朝食は食べれず、昼食は賞味期限の切れたパンで腹痛を起こし、夕食にやっとまともなカップラーメン!
どれだけ貧乏な食生活だって話しだけども、食べれるだけありがたいじゃない。
麺にふーふーと息をふきかけていると、またコイルが鳴った。蒼ちゃんだ。
おい、至福の一時を邪魔しないでくれ!今私は幸せ気分にひたってるんだって!
食べ終わるまで絶対出ない。放置だ放置。
二度目の着信が切れてホッとしていたら、三度目の着信が鳴った。
三度目の着信が切れたら、数秒後に四度目の着信が鳴った。
四度目の着信が切れたら、すぐさま五度目の着信が……――

いい加減にしろーーーー!!!!!

「やっと出た。一度で出ろよな」

「今食事中なの!」

「じゃあ後で俺ん家来いよ。今ばあちゃんがドーナツ作ってるからさ、デザートってことで」

「タエばあちゃんのドーナツ!うん、行っ……あ、でも、今日はやめとく」

「は?どうして」

足が痛いのもあるし、何よりウイルスとトリップに遭遇し後ろめたい気持ちがあるのも事実。
こういう時は家でおとなしくしとくべき。

「ちょっとあれよ、あの、仕事よ、仕上げないといけない仕事があって」

「仕事?そんなの後でいいだろ」

「それがね結構時間かかりそうなの。ありがとね!タエばあちゃんにもありがとう言っておいて」

「そうか、ならドーナツ出来たら持って行ってやるよ。んじゃあとで!」

「へ!?いやいやいやいや、いいってば!蒼ちゃん!?もしもし!もしもーし!」

切りやがった……!
あわててかけ直す、が、出ない。なにこれどういうこと。一度で出ろって言ったのはどこの誰でしたっけ!
耐えきれず怒りをコイルに怒鳴りつけてしまった。ごめんね、コイルさん。
なんだか昨日から振り回されっぱなしだ。まあ、タエばあちゃんのドーナツが食べれるのは嬉しいけども。
そうよね、ポジティブに考えよう。
ウイルスとトリップのことは黙ってたらバレないし。言ったらガミガミ言われるに決まってるから絶対言わない。
足も気付かれたら厄介なことになりそうなので着替えて隠さなきゃ。
玄関で適当に会話して帰ってもらおう。
ザッと計画を立て、残りのカップラーメンを食べようとしたらチャイムが鳴った。
……まさか、もう来た?
ないない。いくらなんでも早すぎでしょ。
宅配かな、回覧板かな、など考えながら足を引きずらせ玄関まで歩く。

「お待たせしました〜ドーナツでございます」

ドア越しに聞こえてきた蒼ちゃんの声。
カギを開けようと伸ばした手を引っこめた。

「来るの早すぎでしょ!」

「なんだよ、出来たての方が美味いだろ?」

そりゃそうかもしれないけども!
やばい、足!隠さなきゃ!

「ちょっと待ってて!一分待ってて!すぐ開けるから!」

あわてて部屋へ戻り足を隠せそうな物を探していたら、今朝脱ぎ捨てたパジャマのズボンを発見。
これでいい!この際なんでもいい!
いざ着替えようとしたら傷口から血に透明の液体を混ぜたような変な汁がテカテカ光りながら流れ出ているのを発見。
うっ、気持ち悪さがレベルを上げてる。
とりあえず傷口をティッシュで押さえ、ちょうど近くにあったガムテープで乱雑に止めた。せめてセロハンテープ置いとけよ私!あーもう、さっきガーゼ取らなきゃよかった……!
仕事着のスカートからパジャマのズボンに履き替えて再び玄関へ。

「ごめんごめん!お待たせ!」

「何が一分だ。三分は待ったぞ。なぁ、蓮」

『正確には四分二秒だ』

顔が見える程度にドアを開けると、ドーナツと蓮を抱えた蒼ちゃんが少し不機嫌そうな顔で立っていた。

「……で、なんだそのドアの開け方は。もっと開けろよ、入れないだろ」

へ、入って来る気!?
ドーナツと蓮を置いて帰れ!なんてことを面と向かって言える根性もなくオロオロしていたらドアをこじ開けようとしてきたのでストップをかけた。

「だめ!入らないで!」

「は?どうして」

「あの、えーっと、部屋、そう!部屋が散らかってて!今日は玄関までで許して!」

「そんなの別に気にしないって。ドーナツ一緒に食べようぜ」

「え、いや、この後いろいろ予定あるから、帰ってくれないかな」

「はあ?予定ってなんだよ。さっき言ってた仕事か?」

「そうそう!それよ!だから、ね?帰ってください!」

「仕事なら俺に気にせずすればいいだろ。邪魔しないって」

「でも、でも、でもなんだ、えっとね、蒼ちゃんがいたらウザくて集中できないだろうしさ、さっさとお帰りくださいませんかね!?」

「失礼な奴だな。つか、お前なんか変だぞ。声上ずってるし。どうかしたのか?」

うぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーー!!しつこい!!
もうこの際ドーナツはいいよ!我慢するよ!そのまま回れ右してお家に帰りなボウヤ!
ったく、どうすれば帰ってくれるかな、考えろ、考えろ、何かいい案はないものか。
……あ。そうか、ドアを閉めちゃえばいいのよ。
言葉をかけて油断したその隙に閉めれば完璧。古風なやり方かもしれないけど、これしか思いつかない頭なもので。
蒼ちゃんが油断するような言葉は……よし。

「蒼ちゃん!後ろ見て!紅ちゃんが鼻血垂らしながらブリッジしてる!」

「はあ?」

いまだ!
思いっきりドアを引いた、が、それよりも早く蒼ちゃんの足が隙間に入り込み阻止された。

「こら。今閉めようとしただろ」

「あ、あはは。違う違う、ちょっと手が勝手に動いちゃって!びっくりだよね!」

「ウソつけ。ほら、開けろ、ドアを開けなさい」

「むり。今日は帰って」

「帰らない」

「帰れ」

「絶対帰らない」

「帰れよもう星に帰れよ!」

。先ほどから気になっていたのだが、顔色が悪いぞ。大丈夫か』

蒼ちゃんとガミガミ言い合っていたら、蓮がドキリとするような一言を放ってきた。
顔色が悪いだなんて、今日の疲れが顔に出ているのだろうか。
しかし驚いた。蓮ったら私のちょっとした異常に気づいてくれたんだ。
やだもう、嬉しい、嬉しい!
たまらず蒼ちゃんから蓮を奪い上げ抱きしめた。

「蓮!大好き!」

「蓮、ナイスだ!」

蓮ナイスだ?何がナイス?……あ。
私がドアから手を離したのをいいことに、すかさず中へ入ってきた。

「はいはいお邪魔しまーす」

「ちょっと!こら!蒼ちゃんダメだってば!」

靴を脱ぎながら私を玄関の隅へ押しやり中へと入っていってしまった。
最悪だ、早く帰らさないと居座る気満々に違いない。

「なんだよ、全然散らかってないじゃん。しかも夕飯カップラーメンかよ!飯作らないときはうちに食いに来いってばあちゃんがいつも言ってんだろ?」

「今日はたまたま!もう、帰ってよ!出てって!」

「つーかお前、なんだそのカッコウは」

私の服装を見定めるかのように上から下、下から上、と目を二度ほど往復させたかと思えば、あからさまに顔を引きつらせた。
上は会社から帰ってきてそのままのオフィスカジュアルなブラウス、なのに下はパジャマのズボン、まあキモイでしょうね。
こっちだっていろいろあるんだよ。誰かさんが来なければこんな姿をさらす羽目にもならなかったっての。

「あれよ、着替えてたら蒼ちゃんがちょうど来て、ね」

「風呂入ってないだろ?なのにもうパジャマ着るのか?」

「最近パジャマが私の中でヒットしてるの!楽でしょ?ふわっとしてて、ほら、開放された気持ちになれるというか!」

「そりゃそうかもしんないけど、もう少しオシャレしろよ」

怒りをこらえて、そうね〜気をつける〜、と適当に流しておいた。
せめてスウェットとか、お前だって年頃の女なんだから、などと私のカッコウを説教しながらドーナツをテーブルへ置きイスに腰かけやがった。
足の痛みを投げつけれるもんなら投げつけてやりたい。
帰れ、帰れよ、ほんと帰れバーカバーカ!

「つっ立ってないでも座れよ」

分かってるよ!
くっそ、ここで足引きずるような姿を見せたら、足どうしたんだ?の方向へ話しが飛んでしまう。
ここからイスまで二メートルほど。普通に、普通に歩く感じで。

「いぃぃっ!ぁっ!!!」

「どうした?」

「なんでもない、足が、しびれただけ、です」

一歩踏み出し右足首へ体重をかけた途端、鉄にでもはさまれたかのような激痛が全身を走った。
必死に涙をこらえ、なんとかイスへ到着。
抱きしめていた蓮を隣のイスへ置き、蒼ちゃんに見えないよう目頭にあふれた涙をサッとふいた。

「やっぱり今日のお前変だ。何か隠してるだろ」

「そんなことないよ」

「じゃあどうして泣きそうな顔してんだよ。目、真っ赤」

「ほこりが入ったの」

蒼ちゃんと目を合わさず下を向き残りのカップラーメンを食べ始めた。

「こら、まじめに聞いてるんだぞ。ちゃんと答えろ」

「ドーナツ食べなよ。冷めちゃうよ?」

!話しをそらすな!」

突然声を荒げる蒼ちゃんに驚き肩がビクついてしまった。危なっ、ラーメン吹き出すところだった!
蒼ちゃんに怒鳴られるなんて、今日はどこまでどん底に落ちるの私。
……言ってしまえば楽なのにな。言ってしまおうかな。
今日ウイルスとトリップに会って、その時転んで足ケガしました。うん、これだけを言えばすむことなんだ。
おそるおそる顔を上げ蒼ちゃんと目を合わすと、とんでもなく怖い目つきでこちらを睨んでいた。

ダメ!言えない!今の蒼ちゃん怖すぎる!!!!

すぐさま目をそらしうつむいていると、私のコイルが鳴りだした。
発信者を確認すれば紅ちゃんの名前が表示され……うおおおお!グッドタイミング紅ちゃん!
怖い蒼ちゃんに、ちょっとごめん、と断りを入れ電話に出た。

「もしも!無事か!?」

うるさーーーーー!!!!
どいつもこいつも声が大きい!

「ちょ、怒鳴らないでよ!無事って何が?」

「よかった、安心したぜ。いやな、顔見知りの客と話ししてたらよ、今朝に俺と仲のいい女が金髪の二人に連れてかれるのを見たって言い出してな」

「へ」

「なんでもその女、転んで足をケガしてたって話しで。俺と仲のいい女なんて山ほどいるが、とりあえずお前が一番に思い浮かんだもんで連絡したってわけだ」

「そ、そ…なんだ……大丈夫、平気平気」

「何が平気なんだ?つかよ、金髪の二人って言や、あの、サウルスとモロッコだっけか?あいつらがをさらったんじゃねぇかってヒヤっとしたぜ」

「あはは、そんな人いたっけ?私ドワスレシチャッタ」

「まあ無事ならそれに越したことはねぇ」

「ご心配してくださってありがとうございました。では!」

手が、手が震える!!!ビッッッックリした!
紅ちゃんが言ってた金髪の二人って、変な名前を勝手につけてたけどウイルスとトリップのことに違いない。
今の会話、蒼ちゃんに聞こえてたかな!?聞こえてないよね!?
顔見知りの客か誰だか知らないけど、余計なことをベラベラと!私あなたを怨みます。ふざけんな。一発殴らせろ。

「今の電話、紅雀か?」

「あ、うん」

「用件は?」

「あの、あれ、元気か〜?うへへ〜って!それだけ!」

「ふーん」

よかった、聞こえてなかったようね。セーフ!セーフ!
へらへら笑ってごまかしていると、蒼ちゃんがコイルを起動し電話をかけ出した。

「あ、紅雀。もう仕事終わったのか?うん、うん、ならの家に来いよ。そう、俺も今来てるから。ばあちゃんのドーナツもあるぞ」

それじゃあ後でな、そう言って電話を切った。
顔が引きつる。ものすごく引きつる。
そのまま睨んでやれば、悪い笑顔で私を見下してきた。テーブルをはさんで無言の睨み合い。
何誘っちゃってんの、何ちゃっかりドーナツもあるとか紅ちゃんが喜ぶようなこと言ってんの!
……まずい、紅ちゃんが来たらさっきの話題をもう一度ふってくるに決まってる。
睨み合ってても仕方ない、紅ちゃんに電話しないと。

「もしもし、紅ちゃん!?」

「おう。つーかお前な、蒼葉が来てるなら言ってくれよ。ってことで俺も今からそっち行くわ」

「いやいや来なくていいから!」

「んな冷てぇこと言うなって。そんじゃ後でな!」

「紅ちゃん!待って!本当に来なくていいよ!来るな!絶対来るな……って、もしもし?もしもし!?」

こいつも 切 り や が っ た !
どうしよう、どうしよう!

「あの、蒼ちゃん、紅ちゃん来ないって!用事できたって!」

「そうか、あと二十分も待てば来るだろ」

「こんの……っ」

「あきらめろ。お前が何隠してるのか知らないけど、紅雀が来たら徹底的に追い詰めてやる」

やだ。
怖い。
逃げたい。
誰か助けてーーーーー!!!!!!





draMAGICAL!! 3☆☆終

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