純血人生 番外編7
綿雲がゆったりと流れる空は、気持ちの良い青空である。
絶好の洗濯日和であり、早朝から昼にかけて大量の洗濯物と替えのシーツを全て干し終えた。
少し時間に余裕ができたので、兵舎内に植えられている花へ水をやっていた……のだが。
兵舎裏を通りかかった時、生い茂る草の上に誰かが倒れているのを発見した。あわてて駆け寄れば、まぎれもなくその人物はハンジさんであり、私は一瞬固まってしまう。
(……え、なに、ハンジさんが、ハンジさんが、倒れてる!?)
素早くハンジさんの口元に耳を寄せ、呼吸の確認をした。聞こえてくるのは規則正しい寝息であり、タイミング良く意味の分からぬ寝言まで言い放ってきた。
どうやらただ眠っているだけのようだ。まぎらわしいにもほどがあるだろう、そう心の中で叫び大袈裟に肩をなでおろした。
しかし外で寝るなど風邪を引いてもおかしくない行為だ。いくら天気が良いとはいえ、時折吹いてくる風は冷たい。
このまま放っておくわけにもいかず、ハンジさんの身体を強めに揺さぶる。
「ハンジさん、起きて、おーい!」
「……ん?あれ、なになに、ここどこ?」
「どこって、外だよ」
「外?」
「うん、外」
寝ぼけているのか何なのか、日差しをさえぎるよう顔の前に手を添えるなり動かなくなってしまう。
数分経過しても全く動こうとしないので、どうしたのかと声をかければ、「ああ!そうだ!」などと突如として大声を響かせた。
上半身を起こし、ここで寝ていた理由を面白おかしく笑いながら説明してくる姿に、私は何故か怒りが湧き始める。
ハンジさんの話によると、研究に没頭していたせいで三日前から一睡もしていないらしく、眠気覚ましに散歩をしていたらぶっ倒れたとのことである。
「ハンジさん、ちょっとそこに正座して!」
「え、な、なに!?正座!?はい!」
「倒れるまで仕事するのは良くないと思います!」
正座をするハンジさんの前で仁王立ちの姿勢をとり少々大きな声で一喝してやった。
ハンジさんは眉を吊り上げる私を見上げ、驚く表情を浮かべてくる。
「そんな……あのね、巨人達が私の欲望をかきたててきて」
「言い訳はだめ!」
「だって!興奮すると眠れなくなる体質なんだ!もう、体中がうずき始めると止まらなくて!」
「ひぃっ、気持ち悪いことを大声で言わないで!」
ハンジさんは後ずさる私の腰を素早く鷲掴み、「怒らないでよー!」と涙目で揺さぶってきた。
怒るも何も、ハンジさんを思ってのことなのに。もっと、自分の身体を大切にするべきだと、私はそう思う。
分隊長という階級まで与えられているのだ、不健康な生活をしていると部下にも示しがつかないだろう。
何より、このような生活を続けていると、いつか本当に倒れてしまうに決まっている。
「ハンジさん……巨人ばかり見てないで自分も見てあげてよ」
「へ、自分を?」
「さっきね、倒れてるのを見つけた時、心臓が痛いぐらい鳴りだしてさ」
ハンジさんに何かあったら私きっと立ち直れない、だから、もっと身体を大切にして、と自然と出てきた言葉をそのまま告げた。
すると私の腰を揺さぶっていた手を止め静かに立ち上がり、正面からこちらを見据えてくる。
「分かった、さっそく実行するよ。今から部屋で寝る」
「うん!ゆっくり寝てね」
「じゃあ、一緒に行こう」
「……は?どこへ」
「私の部屋。まあ、少し散らかってるけど気にしないでね」
「いやいや、待って。一人で戻ればいいじゃない。腕、腕を掴むな!」
「たまには一緒に寝ようよ!リヴァイばっかずるい!」
「どうしてそこでリヴァイが出てくるのさ!」
結局はハンジさんの腕力にかなわず部屋へ連れ込まれるなり、ベッドの中へ引きこまれたのだが。
私の手をにぎりながら、一分もしないうちに無防備な寝顔を見せつけてきたもので笑うしかなかった。
*END*
番外編7は不健康なのに元気なハンジさんでした。
ハンジさんだけでなく、幹部組は常に寝不足と戦っているイメージがあります。笑
ありがとうございました^^