記憶3





エルヴィンの分厚く大きな手。時にはハンジさんの強引だけど優しい手。

夜は必ず手を繋いで眠るようになり、私は兵舎というこの敷地内から「隙があれば逃げ出す」との考えは徐々に消えていった。
それなりに会話も増え、自然と笑顔も増えた。
相変わらず部屋の外へ出ることは許されていないが、エルヴィンは扉にカギをかけることをしなくなった。
少なからず信用してもらえているのだと薄々実感し、兵舎へ来てから一年後には牢獄のように思えた部屋も居心地良く思える場所になっていた。
なんにせよ、地下街にいた頃に比べて充実しているのは確かである。

穏やかな空気が流れる夕方、ベッドの脇へ腰掛け、窓から差し込む夕日の色をぼんやりと眺めていた。部屋中が淡いオレンジ色に染まっている。ぶらぶらと揺らす足もオレンジ色だ。
ありあまった時間の中で、今夜の夕飯は何かと呑気に心を躍らせていると、外より兵士達の怒声が聞こえ、揺らしていた足は反射的に止まった。窓へ駆け寄りおそるおそる外をのぞいてみれば、いかにも若そうな兵士二人が言い合っており、周囲にいる者は今にも始まりそうな殴り合いを食い止めようと頑張っていた。
数秒で言い合いは激化し、ついに足をばたつかせながら拳を振り上げようとする攻撃的な二人、更に力を込めて必死に二人を取り押さえる周囲の人々。何が原因でこのようになったのか検討もつかないが、私の目に映るのは皆仲良くあたたかなオレンジ色に染まる姿、ただそれだけであった。
じわりと胸が痛くなり、「うらやましい」と、つい素直な感情が口からこぼれてしまう。
あの二人、友達同士なのかな、あだ名で呼び合ったりもして、今は言い合っているけど笑顔もたくさん見せて、いざとなれば助け合うのかな、そりゃ兵士同士の仲間だから当然か、などと妙な妄想が次から次へと浮かんでくるもので、痛む胸をさすり窓に背を向けた。
あんなにもお互いの感情をぶつけ合うことができるなんて、生きている間に一度は経験してみたいものだ。なんとも虚しい夢である。
そのまま窓の前で姿勢良く立ち、頭上に真っすぐ腕を伸ばした。オレンジ色の中に映し出される影に向かって、うさぎ、と小さく声をもらす。
腕を下ろし手のひらを頭上でひらひらさせ、犬、ともつぶやいてみた。
友人どころか遊ぶ相手さえいない私は、他人から見れば何をしているのだと思われてしまう一人遊びしかしたことがない。……いいや、一人遊びでもいいじゃないか。第一、小さな子供でもないのに遊びだなんて。実際、今までに年の近そうな者が一兵士として激しい訓練に耐え抜く様を何度も窓から眺めてきた。
私がベッドで寝転び本を呼んでいる間に、兵士の皆は身体を鍛え、朝から夜まで訓練に励み、過酷な時を過ごしている。
(仲間や友人がいて、鍛え抜いた身体をしていて……かっこいいな)
自分はというと友人がいないのは先ほど言った通りで、身体は……。
豆一つない両の手のひら、弱々しい手首、筋肉のついていない二の腕が伸び、あきれるかのごとく溜め息を吐けば肩はこれでもかと落ちた。
私は何を思ったのかスカートのすそををひざ上で結び、袖を捲し上げ、床の上で腕立て伏せの体勢を取った。良く兵士達がしているトレーニングの一つだ。
見よう見まねだが、力を込めて少しずつひじを折り曲げてみた。が、すぐに床へ崩れ落ちてしまう。腕が痛いのなんの、もう一度……もう一度……!
何度しても結果は同じであった。崩れ落ちてしまうか、ひじを曲げるところまでは耐え抜けても上へ戻れない。ここまで筋力がないとは、自分でも驚きである。
拳を床へ叩きつけ悔しがっていると、突如としてノックも無く部屋の扉が開いた。
床へ寝転び息の上がる私を唖然と見下ろしてくるのはハンジさんであった。無言の見つめ合いが十秒ほど続き、「ど、どどどうしたの!?」とあわて始めるハンジさんは駆け寄って来るなり上半身を抱き起こしてくれた。更には首が吹っ飛びそうなほど両肩を揺さぶられ、汗と鼻水が飛び散ってしまう。

!体調が悪いの!?しっかりして!」

「ぐえっ、ちょ、ぶへ!ハン、ジさん!ストップ!ストッふげあ!」

「はっ、喋れるんだね!?よかった」

「もう、わざとでしょ、絶対わざとでしょ……うぐぅ気持ちわる……ぁぁ」

「ねえ本当にどうしたの?床で寝転がって、しかもすごい汗じゃないか」

「あ、ああ、腕立て伏せをしてて、あはは」

「腕立て伏せ?なに、運動不足なの?」

「うん、そのね、体力をつけようと思って。でも腕の力が無いのか一回さえもできないの」

私の発言に漠然とした表情を浮かばせるハンジさんは、自ら腕立て伏せの体勢を取り右手だけで身体を支えた。左手は背後へ回し腰にぴたりとつけている。
そのまま腕立て伏せを始めるものだから素っ頓狂な声を上げてしまった。私の声に反応したハンジさんは、意地悪そうな笑みを浮かばせこちらを見上げてくる。
私がすごい!すごい!と褒めたたえれば、兵士は日々鍛えているからと一言添え、意地悪な笑みから苦笑いへと変わった。
腕立て伏せを終えたハンジさんの二の腕を掴み、どれほどの筋肉がついているのか揉んでみた。がしりとしたたくましい腕に感激してしまい、悲鳴に似た声を上げてしまう。続いて、どれどれー、などと少々面白がる様子でハンジさんも私の二の腕を揉んできた。
私の筋力がどれほど衰えているのか気付いたらしく、「ぶは!この腕じゃあ腕立て伏せは無理だわ!」と失礼な発言を飛ばしてきたので腹部を軽く小突いてやった。その腹部までも筋肉で硬く、げんなりしたのは言うまでもない。

いつの間にか夕焼けのオレンジ色が夜の色へと変わっていた。薄暗い部屋の中、じゃあここは、ここは、と身体中の筋肉を確かめ合うこと数十分。
またしても部屋の扉が開いた。
部屋にランプも灯さず必死に筋肉を触りあっていたもので、扉が開いた途端、廊下に設置されているランプの淡い灯がまぶしいほどに差し込んできた。
床に座り込み身体中を触り合う私達を見下ろしてくるのはエルヴィンであった。案の定、三人で無言の見つめ合いが十秒ほど続き、「……な、なにを、なにをしているんだ」そう震える声でエルヴィンが問いかけてくる。

「やあ、エルヴィン!会議は終わったの?お疲れさま!」

「ああ、お疲れさま。いやいや、そうじゃなくてだな、一体何を……」

「何をって、筋肉の確認だよ」

「筋肉の確認?なんだそれは?」

「あれ、知りたい?ざーんねん、教えてあげない」

の身体がふにゃふにゃなのは黙っててあげる、と耳元でささやかれ硬い腹部をもう一度小突いてやったが、当の本人はこれっぽっちもダメージを受けておらず笑っていた。
その間に近付いてきたエルヴィンは私の腕を引っ張り床から立ち上がらせてくれた。ハンジさんも立ち上がり、二人して尻のほこりをはらう。
ところで、とエルヴィンが話を振ると、ハンジさんはポンと手を叩き合わせた。

「そうそう!に大事なことを言い忘れてた!」

「……あのなあ、それを伝えるように部屋へ行ってくれと頼んだはずだが」

「あはは!ごめんごめん。ねえ、今夜の夕食は食堂で食べない?」

「もちろん三人でな」

前のめりで、食堂だよ食堂!と明るく言うハンジさんに対し、私は後ろへ一歩後ずさりしてしまう。
食堂は兵士の皆が食事をとる場所だ。先ほど言い合っていたあの二人も、それを止めようとしていた人達も、皆が利用しているに違いない。
(そんな場所で私が食事を……?)
率直に嫌だと思った。何が理由かは分からないが、またしても胸が痛む。
エルヴィンとハンジさんの顔を見上げれば、私の反応を予想していたかのように眉を垂れ下げ苦笑いを浮かべていた。やれやれと言葉が聞こえてくるような雰囲気である。
するとエルヴィンが私の前でヒザをつき、肩に手を添えてきた。

「何も怖がることはない。むしろ食堂は楽しいぞ?」

「でも、私は部屋でいいよ」

「ダメだ。さあ、食堂へ行こう。そろそろ込み具合も落ち着いてくる頃だ、ちょうどいい」

「うわ!」

エルヴィンもハンジさんも、たまに強引な時がある。まさに、今がそうだ。
どうにもこうにも、こうと決めたらこう。エルヴィンは立ち上がるなり私の右手首を掴み歩き出した。
いやだいやだ!とエルヴィンの分厚い手をもう片方の手ではがそうとしていたら、素早く横から伸びてきた手に左手首も掴まれてしまう。
左手首を掴んできたのは笑顔を浮かばせるハンジさんであった。
二人に手ではなく手首を力強く引かれ、廊下を歩き、階段を下り、行きついた場所はもちろん食堂。

「あ、奥のテーブルが空いてるね。あそこにしようか」

「そうだな。あそこなら人目にもつきにくいだろう。、行くぞ」

「……」

返事をする余裕などない。今の私は、相当びびっている。
(し、しししょしょ食堂……!)
テーブルとイスがいくつも並ぶ部屋、食堂。想像以上に広い空間であり、足が震えた。
食堂へ一歩入った途端、食事をしている者の視線が一気にこちらへ集中し、反射的に顔をうつむかせてしまう。
食堂へ来るまでにも何人かの兵士とすれ違ったが、皆の視線は私に向いていた。何故か追いつめられているようで泣きたくなった。
奥のテーブルへとたどりつき、端のイスに座るよう誘導される。隣のイスにはハンジさん、前にはエルヴィンが座り、皆から見えないよう囲ってくれたので、やっと顔を上げることができた。
しかしそれも束の間。エルヴィンは「のそばにいてやってくれ」とハンジさんに言うなり、そそくさとテーブルを離れた。どこへ行くのだろうか。

「そんな不安そうな顔しなくてもエルヴィンはすぐに戻ってくるよ」

「へ、あ……ふうぬ」

「ふうぬって……おーい、大丈夫?」

「だ、大丈夫だけど、ひどいよね二人共、急に食堂って……」

「そう怒らないでよ。生きていく中で人慣れしておくのも大切だしさ。とはいえ大注目だったね!」

「視線って本当に突き刺さるんだって知ったよ」

「えらいえらい、よくここまで歩けたもんだ。まあ、私はびびりまくるに笑いをこらえる方が大変だったけど」

「そっか笑いをこらえ……え、なん、はい!?」

「だってすっごいへっぴリ腰で、ぶふっ」

お腹に手を当て、結局は大笑いしだすハンジさんに怒りが湧いたのは言うまでもない。
そこへ両手いっぱいに食事を持ったエルヴィンが帰ってきた。どうやら三人分の食事をとりに行っていたらしい。
大きな声で遠慮なく笑うハンジさんと、そんなハンジさんをキッと睨む私の前に湯気の立つスープを置いてくれた。
「楽しそうじゃないか、俺も会話に入れてくれ」とエルヴィンは何を勘違いしたのか、頬笑みながらイスに腰掛ける始末である。
初めての食堂は、ハンジさんが込み上げる笑いのせいで何度かスープを噴き出しながら食べ、その飛び散ったスープをエルヴィンが拭き、私は怒りに堪える場となった。
食べ終えた食器を片付け、三人で部屋に戻っている途中、未だにしつこく笑い続けるハンジさんの背中を思いきり叩いてやった。

「もう!いい加減笑うのやめて!」

「だってー!あそこまでお尻突き出すへっぴり腰……初めて見たんだもん!ぶはー!」

「こんの……!」

「あ、あの、お話中すみません」

「お、どうしたのモブリット」

背後より声をかけてきた男性の兵士は、研究室に来てください、と軽く頭を下げてきた。どうやら仕事の話らしい。
ハンジさんは私に手を振り、上った階段を早足で下りて行った。
一気に静かになってしまい、ハンジさんが去って行った階段を呆然と見下ろしていると、エルヴィンが優しく頭をなでてきた。「さ、部屋へ戻ろう」と手を引かれ、再び足を進めるのであった。

翌日、またしても夕食の時間帯になるとハンジさんが迎えに来た。
食堂はもういいよ、と反論するが結局は部屋から引っ張り出され、引きずられるように廊下を歩く始末だ。
途中、エルヴィンは仕事が長引いているらしく二人での食事になると、にやにやとした表情で告げられる。
何か企みがあるのかと構えて食堂へ行ったが、何事もなく逆に拍子抜けするほど昨日と同じ流れで食事が終わった。ただ、告げられた通りエルヴィンは食堂へ来なかったが。
食後はハンジさんに部屋へ誘われ、紅茶をご馳走になった。とても香りが良く苦味の少ない紅茶……と味までは覚えているのだが、二口目を飲もうとした途端に意識を手放した、らしい。
意識を取り戻した時にはベッドの上でハンジさんの抱き枕にされていた。
ここでやっと気付いた。また紅茶に眠たくなる薬品を入れられたのだと。あのにやにやの意味は……。
筋肉質な身体にぎゅうぎゅうと締めつけられ苦しさのあまり、ぐえ、と朝から汚い悲鳴を上げるのであった。

更に翌日、今夜はエルヴィンが迎えに来てくれた。
食堂へ着けばハンジさんが大声で、「こっちだよー!こっちこっち!」と手を振ってくるもので、皆の注目が最大限に集まってしまう。
エルヴィンは苦笑いで溜め息を吐き、私は隣で岩のように固まるしかなかった。

一週間、二週間、日々食堂へ通い続けることであっという間に食堂の雰囲気に慣れた私は、当然、夜の時間が楽しみになってくる。
今日はエルヴィンが迎えに来てくれるのかな、ハンジさんが迎えに来てくれるのかな、食事中に何のお話をしようかな、と考えることはそればかり。

夕食を食堂で食べるようになり三週間と二日目の夜、エルヴィンもハンジさんも二人そろって仕事の為、部屋で食事をとることとなった。久々に一人での夕食である。
運ばれてきたスープはあたたかいし、パンも甘いジャムがついているのに、何故か美味しいと思えなかった。

翌日も部屋で一人の夕食であった。
夕食を運んでくれた兵士の方に、エルヴィンとハンジさんは今後もしばらく忙しいのか聞いてみると、「来週は壁外調査がひかえているからね」そう返事を返され、首をかしげてしまう。
(……壁外調査?)
兵士の口から、さも当然のように出てきた言葉、【壁外調査】。
壁外調査とは何か聞いてみようとしたが、妙に嫌な予感がしたのでそれ以上は口を閉ざした。
その日エルヴィンが部屋へ戻ってきたのは、もうすぐ日付が変わる深夜であった。暗い部屋の中で、勢い良くベッドから這い出るなりエルヴィンに飛び付く。

?起きていたのか」

「うん、お帰り」

「ただいま。……なんだ、寂しかったか?」

「あ、その……」

「もう寂しくないぞ。ほら、ベッドに戻りなさい」

「え、エルヴィンは?まだ寝ないの?」

「俺も寝るよ、その前に風呂へ入ってくる」

「……分かった」

言われた通りベッドへ戻り、エルヴィンに背を向け寝たふりをした。
やがて風呂から上がったエルヴィンは、ソファーでしばらくくつろぎベッドへ入ってきた。
私の手を優しく包み込んでくれたところで、手をにぎり返し、薄っすらと目を開けてみる。
まだ起きていたのかと驚くエルヴィンに、気になるアレを聞いてみた。

「エルヴィン」

「ん、どうした」

「壁外調査って、なに」

「……誰から聞いたんだ」

一瞬にしてエルヴィンの目つきと声色が変わった。
誰から聞いた、答えなさい、と何度も責め立ててくるもので、口ごもってしまう。
ここで答えてはいけない気がした。少なからず兵士の方に迷惑がかかる。
咄嗟に思いついたセリフだが、「廊下から話し声が聞こえてきた」そう返事を返しておいた。

「……はあ、いつかは教えなければと思ってはいたが」

「ね、教えてよ、壁外調査って……」

「そのままの意味だよ」

「壁外、調査、壁の外を調査?」

「そういうことだ」

「壁外へ、壁の外へ行くの?エルヴィンが?……ハンジさんも?」

「ああ」

「でも、壁外には巨人がいるんじゃ」

「遭遇したら討伐する。立体機動装置を使ってな。窓から訓練風景が見える時があるだろう?あれが我々の武器だ」

「それでも危ないよ。巨人は人間を食べるって聞いたもん」

「そうだな、の言う通りだ」

「なら、壁外なんて行かない方が……」

「ここで怯えては人類の負けだ。分かってくれ」

言い返す言葉が見つからず無言の間が続いてしまう。
困り果てているとエルヴィンはふと笑い、明日は一緒に夕食を食べようと私の頭をなで、目を閉じた。
地下街で過ごしていた素性の分からない私に、ここまで優しく接してくれる人、エルヴィン、ハンジさん。
どうして二人が壁外へ行かなければならないのか。
(そりゃあ兵士だから……なのかな)
なんとも、残酷である。
少しだけ距離を詰めて目を閉じたが、全く眠れなかった。

一週間後、エルヴィンはいつも通り「今日もいい子にしてるんだぞ」と私に声をかけ部屋を出て行こうとしたが、数歩進んだところで振り返り、手招きをしてきた。素直に駆け寄れば抱き締められて。少し、力強く。
今までも何度かこういうことがあった。何となくだが、今日から壁外調査なのではないかと、勘付いてしまう。
案の定、エルヴィンとハンジさんが次に私の前へ現れたのは四日後の夜であった。二人とも疲労の浮かぶ顔色ではあったが笑顔を向けてくれたことで、いつの間にか緊張していた精神は一気にほぐされた。直後、私の腹が鳴り笑いが湧き起こる中で、ご飯を食べよう話が進んだ。いつもの日常が戻ってくる感覚に嬉しくなる。
食堂へ行くつもりで扉に駆け寄るが、今夜は食堂へは行かない方が良いとハンジさんが言い出し、部屋で夕食を食べることになった。
何故食堂へ行かないのか不思議に思っていると、ハンジさんがエルヴィンの耳元で、「壁外調査から帰還した日は泣いてる兵士が多いから」とつぶやいた声が聞こえてしまった。薄々だが、どういう涙であるか察してしまう。

翌日は、食堂にて三人で夕食を食べた。
料理は山菜のスープ。山菜は大好物であるゆえ夢中になり食べているとエルヴィンと目が合い、いい顔してるな、などと茶化してきた。

「食堂へ来るようになって一ヵ月だが、どうだ、慣れてきたか?」

「うん、もうとっくに慣れてるよ?」

「へえ、言うじゃないか」

そこで、急にハンジさんがスープを噴き出した。
エルヴィンと私はギョッとし、胸に手を添えながらむせるハンジさんへあわてて水を差し出す。

「ハンジさん大丈夫!?」

「ぐふっ……ごめんごめん、っ、くく、いやあ、も成長したなあと思ってね……ほら、あのへっぴリ腰がさあ!あはははは!」

「……は!?」

一ヵ月前と同様に、ハンジさんが思い出し笑いのせいで何度かスープを噴き出しながら食べ、その飛び散ったスープをエルヴィンが拭き、私は究極なる怒りに耐える場となった。更には、「あれれ?顔真っ赤だよ、まっかっか!なに、私に笑われて恥ずかしいの?あはははははは!」と笑いだし、これでもかと頬が引きつった。地下街で性質の悪い酔っ払いを見た時以来の衝撃である。
ハンジさんの笑いが止まらず普段よりも時間はかかったが、何とか三人とも夕食を食べ終え食器を片付けた。
いつもならその後は食堂を出て部屋へ向かうのだが。何故か食事をとったテーブルへと戻り、少し待っているようエルヴィンに声をかけられる。
エルヴィンとハンジさんは二人して小声で話した後、エルヴィンは食堂を出て行き、ハンジさんは私の横へと腰掛けた。
ハンジさんに、どうしたのかと声をかけてみるが、すぐに分かるよ、と眉を垂れ下げた笑顔で返事を返され、妙な違和感を感じた。
数分後、エルヴィンは食堂へ戻ってきたのだが、唖然としてしまった。
何故なら、エルヴィンの隣にリヴァイがいたからだ。







*NEXT*








-あとがき-
記憶、第三話!ご覧いただきまして、ありがとうございます。
そしてそして、お久しぶりです兵長!笑
本編ではメインの活躍をしていたのに、過去編では第三話でやっと登場。しかも最後の一行。
ご、ごめんなさい……。
ここからは活躍していただきます!