心配ゆえに





どうにかしてあいつに睡眠をとらせたいんだが、頼めるか。難しいようなら手っ取り早く気絶させればそれでいい。

久々にリヴァイが深刻な顔をして頼みごとをしてきたかと思えば、そんな内容であった。
現在のハンジさんは、先日の壁外調査で持ち帰った何かの破片を調べる為、研究室へ入り浸っていると兵舎の中で噂が立っていた。
いつものことだろう、などと軽く考えていたわけだが、どうやら今回は度が過ぎるらしい。
兵舎へ帰還してからというもの三日も食事もとらず研究を進めるあまり、ハンジさんの部下達から心配の声が上がる、上がる。それに比例するかの如くリヴァイの表情が不機嫌と化していたのを私は知っている。
現状(想像するだけで汚いクソメガネ)を見兼ねたリヴァイはハンジ班の兵士達と話し合いをし、実力行使に出たと言う。
リヴァイがハンジさんへ忍び寄り、背後より一発で気を失わせ、その間にハンジ班の皆が性別など関係なく汚れた服をはぎ取り急いで風呂へ入れたのことだ。
このようにハンジさんを無理矢理に風呂へ入れ、ついでに睡眠をとらせる行為は今までに何度かあったと聞くが……。
今回に限り、風呂から上がりすぐに目を覚ましたハンジさんは、何故か機嫌を損ねたらしい。
それからというもの皆を研究室から追い出し、内側からカギをかけ、一人立て籠っている状態が二日続いているとのことだ。
ようするに下手すれば五日間睡眠をとっていないことになる。食事は……どうしているのだろうか。まさか幻覚を見てその辺の薬品を食べていなければいいが。
(リヴァイもリヴァイで、心配ごとを人に頼むだなんて……めずらしい)
何だかんだと言いながらハンジさんに睡眠をとらせたいと考えている時点で、リヴァイの優しさなのだろうけれど。もちろんハンジ班の皆の願いでもあるだろう。
私が行ったところで説得できるとは思えないけれど、行動してみようと思う。

とりあえず誰も寄りつかない研究室の前まで来てみたが、案の定扉にはカギがかけられていた。
さて、ここからどうするかである。まずは普段通りノックをしてみようか。
扉を強めに三度叩きハンジさんの名前を呼べば、少し間を置いてカチャっとカギの開く音がした。
(あれ、開いた……?)
ゆっくりと開いた扉の向こう側から顔の右半分だけを出し、目を細めてこちらを見下ろしてくるのは……もちろんハンジさんだ。

「ハ、ハンジさん……」

「やあ、。なに、皆に私を連れて来いって頼まれたの?」

「え、いや、ち、違う違う!最近まったく顔を見ないから心配になって」

「……そうか、ごめんね心配かけて。研究室散らかってるけど、よければどうぞ」

「あ、じゃあ、うん、お言葉に甘えて……失礼します」

ハンジさんは私を中へと招き入れるなり、速攻で扉にカギを締めた。何と言うか、警戒心が半端ない。
途端、部屋の中は暗闇と化し、机の上で煌々と輝く小さなランプがメインの光となる。
それにしても、床のそこらじゅうに散らばる紙、あちこちに積み上げられた分厚い本、折り目が何カ所もついた資料など……まさに研究室は散らかっていた。
このような部屋に五日間も入り浸っているとは……。加えて、少なからず異臭もただよっているではないか。
イスに腰掛けるハンジさんの隣へ行き、率直にリヴァイ達が気にかけていることを聞いてみた。

「ねえハンジさん、最後に寝たのはいつ?」

「寝たの……寝た、寝た、あれ、いつだったかな、ああ!リヴァイ達に気絶させられた時が最後だね」

「それって二日前だよね?あの時もすぐに目を覚ましたって聞いたけど」

「うん。すぐに目が覚めた。だってひどいんだよ、何か閃いた瞬間にガツンときたんだ。だから悔しくてすぐに意識が戻ったんだろうね。その閃きを未だに思い出せなくてさ……くっそ」

ぐぬぬぬ、と眉間にしわを寄せるハンジさんを見て、機嫌を損ねた原因が何なのかすぐに分かった。
こう、美味しい料理が目の前にあったのに邪魔をされたせいで食べれなかったと、簡単に例えるならそういうことだろう。
どうやらリヴァイはハンジさんを気絶させるタイミングが最高に悪かったらしい。

「……あの、気の毒だとは思うけど、皆ハンジさんを心配してるわけで、そのね」

、やっぱり誰かに頼まれてここに来たね?誰、リヴァイかな?」

「いやいやいやいや!違うよ!私の意志だから!」

「本当に?」

怪しむ表情でこちらを見てきたもので慌てふためいてしまう。
その間にも眠そうな目をこするハンジさんときたら……少々可哀相に思えた。熱中したら止まらない性格、集中力がありすぎるのも良し悪しである。
疲労しきった雰囲気が身体全体から発せられているように見え、やはりどうにかして寝させなければと改めて決心がついた。
目の下に浮き上がるクマは相当なものだ、兵舎内で一番の寝不足はハンジさんだと言い切れる。
そこで、私はハンジさんにまぶたを十秒間閉じるようお願いをした。
先ほどまで怪しがっていたというのに、素直にまぶたを閉じる様には笑いそうになったが、その間にランプの灯りを消し、ハンジさんのメガネを素早く外してやった。

「あ!こら、!何してるの、って真っ暗!」

「ハンジさん、そのまま少し寝よう。机に突っ伏して寝るぐらいなら熟睡するまではいかないでしょ。少しでも寝てくれたらメガネは返すから」

「あのね、私は今研究中なんだ、睡眠なんてとってられない、時間がもったいない」

「ならメガネは返してあげっ、ひ!うわ!」

「え、!?大丈夫か!?どうしたの!」

「ったた、何かにつまずいて、ごめんなさい」

「もう、どこ?ほら、手を伸ばして、って!あ!やばっ」

「ぅぐえっ!」

つまずいて尻もちをついた直後、腹部に重たい何かが倒れ込んできた。
即座に謝罪の声が飛んでくるもので、ハンジさんが転んだのだと簡単に予想はついたが。
ここで、私は咄嗟に一つの案を思いつき、自分自身でも驚くような強行手段へと出る。
痛む尻を我慢しながら、転んだハンジさんを抱き締め、床上へ一緒に寝転んだのだ。床のホコリを肌で感じたが、今更気にしたところでもう遅い。

?へ、なに、なになに、これはお誘い!?い、い、いいの!?」

「なんの勘違いしてるのか知らないけど、このまま寝よう、別に寒くもないし床でもいいよね」

「うん、私は床でもどこでもいいけどさ!ぐあっ、が大胆だ!どどどどうしよう!」

「だから勘違いやめて!ストップ!ストップ!」

「くく、あはははは、はあ、分かったよ……少しだけ寝ようかな」

「うん、研究の邪魔してごめんね。でも、身体を大切にしてこその研究だと思うの……おやすみ、ハンジさん」

「……ん、の言う通りだ。こんな私で、ごめんね」

おやすみ、とハンジさんは私を抱き締め返し、数秒後には寝息を立て始めた。
(こんな私で、ごめんね……って、謝ることないのに)
何気なくハンジさんの顔にかかる髪を後ろへ梳いてやると、色っぽい声を漏らし抱き締める力を強めてきたので緊張が走った。
妙に火照る頬を隠すようにハンジさんの胸へ顔をうずめると、異臭が鼻につき一気に青ざめてしまう。

目が覚めたら風呂へ入ってもらおう。うん、絶対。
このままだとリヴァイの機嫌が奈落の底へと落ちてしまう予想が簡単についた。








*END*







-あとがき-
ハンジさん短編でした。ご覧いただきまして、ありがとうございます!
リヴァイの実力行使により風呂へ……はい、妄想が止まらず書き上げました。笑
愉快な調査兵団は癒しです!