暴走
祭りが開催されると情報が飛びかった。
シンドリア王国では島に乗り上げてきた南海生物を退治した日、盛大な祭りとなる。
祭りは最高だ。美味しい料理をたくさん食べれる上に、皆の笑顔が見れる。国民はもちろん、旅人、観光客、商人も混ざり皆で大いに盛り上がるのだ。
いつもは日が暮れるまでバザールに店を開いているのだが、祭りの開催と聞き付け、日が高いうちに売り物を片づけた。
急ぎ足で売り物を家へ置きに帰り、動きやすい服装に着替え王宮へ向かう。
祭りを楽しむより前に、王宮内で料理を運ぶ手伝いをしなければならない。以前に王宮で働く知人に紹介された仕事だ。
それはそれは忙しい仕事だけれど、祭りが終わった後、余った料理を存分に食べれるという何とも素敵なオマケ付きなのである。
余り物とはいえ一流の料理人が作った王宮料理。どれも全て頬がとろけ落ちてしまいそうな物ばかり!
本音を言うと、余った料理を目当てにこの仕事を引き受けたようなものだ。
さて、と気合いを入れ王宮での手伝いを開始した。
次から次へと出てくる料理や酒を無限に広がるテーブルへ運び続ける。それこそ八人将の方々や王様のテーブルにも飛ぶように運ぶ。
そう、初めて王様のテーブルへ料理を運んだ時はひどく驚いた。
遠目でしか見たことのない王様、それはもう緊張した。がたぶる震えながらテーブル前まで行ったはいいが、その場で料理を落としそうになったことを今でも鮮明に覚えている。
すさまじかった。王様の足にまたがる女性の数々。あれを見た途端に緊張なんてどこかへぶっ飛んだ。それからは何を気にすることもなく平然と運べるようになったわけだが。
そして今回も平然と王様のテーブルへ料理を運んでいる。相変わらず女性に囲まれて、いかにも「王様」らしい。
まあ祭りだしね、思う存分楽しんでくださいよ。さあ、仕事仕事、次だ次!
厨房からテーブルへ、厨房からテーブルへ、何時間も往復を続け足も痛くなってきた頃。そろそろ祭りも終盤か、酒に酔いつぶれ眠り出す者が増えた。そういう人には薄い毛布をかけてあげるのが決まりだ。スヤスヤ眠る大人達に毛布をかけて回る。
しばらくして厨房へ戻ると、酒の入った高級なグラスを渡された。それ王様のテーブルへ頼むわ、とのこと。
変わりなく酒を運ぶと、王様の周りにいた女性陣の姿は無く八人将の方々と笑顔で会話を弾ませていた。
失礼します、そう断りを入れ酒の入ったグラスをテーブルへ置き立ち去ろうとした、が。
「待ちなさい」
「あ、はい、何かご用でしょうか」
「お嬢さん、顔が疲れているね。ここで少し休んでいくといい」
何事かと思えば、とても優しい言葉をかけてくださった。さすが王様だ、女性に人気のある理由が分かる。
だが、ここで甘えるわけにもいかない。最後まで働いてこそ、美味しい料理を存分に味わえるのだ!何より、皆疲れながら一生懸命働いている。私一人が休憩するなど、あつかましいにもほどがある。
「お心遣いありがとうございます。まだ仕事が残っておりますので、失礼します」
「君は王の命令より仕事を優先するのか」
王様の不機嫌な低い声にその場が一瞬静まった。え、私何かまずいこと言った……!?
こちらを睨み上げてくる王様は、とても怖い顔をしている。一気に体中から血の気が引いた。
もしかして、王様が優しい言葉をかけてくださったらそれに従うのが常識なのだろうか、それとも断り方が失礼だったのか、どうしよう、どうしよう!!どうすれば王様は機嫌を直してくれる!?
とりあえず、申し訳ありません!と何度も謝罪を繰り返した。
すると王様は笑顔になり、分かってくれればいいんだ!さあ、思う存分ここで休憩していくといい!そう言いながら先ほど私が持ってきたグラスを手渡してくる。
これはもう酒に付き合えと言わんばかりの状況じゃないか。仕事中に酒はご法度。八人将の方に助けを求めるよう顔を上げれば、違うテーブルへ移動し、こちらに背を向けぎゃあぎゃあ楽しそうな会話で盛り上がっていた。
厄介事を押しつけられた気がするのは、気のせいだろうか。
「まあ、座りなさい」
「……では、少しだけ」
空いているイスに座り、渡されたグラスをテーブルに置いた途端。王様は足を伸ばし、私の座ったイスを蹴り飛ばした。私とイスは仲良く派手に転がる。慌てて起き上がり、再び謝罪をした。
いや、ちょっと待って、えええええええ!?何、またまずい事した?まさか、このイスはとても高級なイスで私が座っていいものではなかった!?分からない、王宮のルールが分からない!!!
転がったイスを呆然と見つめ、心の中でイスにも謝罪した。
更に王様は何を考えているのか周りにあるイスを全て蹴り倒し、もう席は一つしか残ってないね、と言いながら自分のヒザを叩く。
……ああ、なるほど、足の上に座れと言うのか。先ほど王様と仲良くしていた女性陣が頭の中でよみがえる。
「ほら、おいで」
「いや、あの、それはちょっと」
「どうして、いいじゃないか。今日は祭りだ!遠慮などしなくていい」
「王様の足に座るなんて、バチがあたります」
「俺が誘っているんだ、そんなことにはならないよ」
「いいえ、駄目です。そうだ、女性を希望されるのでしたら今すぐ他の者を呼んで参ります!」
確か違うテーブルに男性の相手をしている女性が何人かいたはずだ。その方々にお願いしてみよう。
王様から離れようと一歩踏み出した所で、腕を掴まれた。その腕を無理に引かれ、王様の胸の中へと抱き寄せられる。
というかジャラジャラと首からぶら下がる金属に顔面を直撃してしまった。痛い、これは地味に痛い!!
「逃げることないだろう。王の俺が怖いのか?」
「いえ、素直に申し上げますと、こういう行為に慣れていないもので……」
「そうか!初々しいお嬢さんだ」
「それに今の私、汗臭いので申し訳ないというか」
「いいや、そんなことはない。果物の香りがするよ」
「……もういいでしょうか、私そろそろ仕事に戻らないと怒られます」
「そうだな、まず君は露出が少ないね。もっとこう胸を強調する服を着るべきだ」
何やら手がごそごそ動き、あろうことか私の胸を下から持ち上げるように揉んできた。
そこで何かがブチンと切れた。
気付けば王様の顔面に、固く握りしめた拳をぶち込んでいた。
ああああああああああああああ!!!!しまった、やってしまった、よりにもよって王様を殴ってしまった……!
即座に王様から離れ、本日何度目か分からない謝罪をする。やばい、怖くて顔さえ見れない。九十度を超える勢いで頭を下げ、ひたすら冷や汗を流すしかなかった。
「何事ですか!」
こちらに気付いたジャーファル様が駆けつけて来た。
何やら大ごとになってきた。せっかくの祭りなのに、私のせいで場の空気を乱してしまうのか。
「申し訳ありません、私、王様を……殴ってしまいました」
「こちらこそ申し訳ありません、どうせ王のことです、変なことをしてきたのでしょう。大丈夫でしたか?」
ジャーファル様が天使に見えたのは言うまでもない。
ここは私にまかせてください、力強い言葉を添えてこの場から逃がしてくださった。
ジャーファル様!何て優しい方なんだ!!急いで厨房へ戻り、仕事を再開した。
王様、私みたいな一般人にまで手を出してくるなんて、よっぽどの女好きなのか。もう今後一切近付かないと決めた。王様のテーブルへ料理を運べと言われたら違う方に変わってもらおう。
それからしばらくすると祭りも終わり、私達は後片付けを始めた。
そして働いた者達が一つの部屋に集まり酒を手渡される。さあ!私の本番はここからだ!
余った料理達がずらっとテーブル一面に並んでいる。お疲れ様ー!の合図と同時に、皆が料理を食べ始めた。
さっそく私もいただくとしよう!まずはこの白身魚から!ホワイトソースをたっぷりかけ口に入れようとした所で肩を叩かれた。
「食事中にごめんね、ちょっといいかな」
「はい、何でしょうか」
「王様にあなたを呼んできて欲しいと頼まれたのよ。あなたの分の食事は取っておくから、先に王様の元へ行ってもらえるかしら」
最悪だ。何、王様怒ってる?そりゃ怒ってるよね、思いっきり殴ったんだもん。
でも殴った時に何度も謝罪したじゃないか。これ以上謝罪しろって言うの?私だって嫌な思いさせられたのに、胸をあんな……。
今は王様に会いたくない。とは言え、ここは王宮内だ。いつ王様が現れてもおかしくない。
帰ろう。今すぐ帰ろう。
白身魚を一口食べ、その場を去った。悔しいけど仕方がない。
翌日、いつも通りバザールで店を開き品物を並べていると急に周りが騒がしくなった。
何事かと人だかりの方へ近付いてみた。すると、王様だ!王がバザールに来たぞ!そんな声が聞こえてくるではないか。
まさか怒りのあまり私を探しに来たのか、そんな考えが頭をよぎった。いやいやいやいや、それはないだろう。そこまであの方もヒマではないはずだ。きっと別の用事に違いない。そうであってくれ!!!
念のため、その辺にあった大きな布を頭からかぶり顔を隠した。見つかると厄介だしね。念には念をだ。
どんどん近付いてくる皆の騒がしい声。そのまま立ち去ってくれ、立ち去ってくれ、立ち去ってくれ!
「おお、いたいた!やあ、。探したよ」
口の中が血の味しかしない。
恐る恐る顔を上げれば、素晴らしい笑顔で私を見下ろす王様がいた。
その後ろで、すみません、とつぶやくジャーファル様は相変わらず天使である。
「いやあ、君が気になってね、いろいろと調べさせてもらったよ。今夜一緒に食事でもどうだい」
国民の前で堂々と私を食事に誘っていいのか!?駄目だろ!
怖い、怖いよ、何か逆襲みたいな怖い事を企んでいるのだろうか。
「……あの、昨日のことでしたら何度でも謝罪します。申し訳ありませんでした」
「あれは俺も悪かったよ。だから、今夜一緒に食事をして仲直りしよう!王宮で待っているからね」
小声で、絶対来いよ、と聞こえたのは私だけだろうか。いいや、ジャーファル様にも聞こえていたようだ。顔が引きつってらっしゃる。
それだけを告げて王様は来た道を戻って行った。
王様から食事に誘われるなんて羨ましいな!私も一緒に行きたい!存分に美味いもん食って来いよ!などと周りで笑いが起きているが、待って、私王宮へ行かないから、あんな恐ろしいお誘い拒否だ!何されるか分かったもんじゃない!ぁああ、どうして王様を殴ってしまったんだろう。感情をコントロールできなかった昨日の自分がバカとしか思えない。
まあ、過ぎたことを悔やんでいても仕方ないが。
さっさと売りさばいて今日は早めに家へ帰ろう。
翌日、もしかしたら王様が来るかもしれないとハラハラしながら店を開けた。
仕事を休んで家に隠れていたいが、裕福でない私はそんなわけにもいかない。一日に二度果物を仕入れ、売り出し、その儲けで生活が成り立っているのだ。
気持ちを強く持って、いつも通りの笑顔で店を繁盛させた。
しかし、私の構えは空振りしたようだ。王様は姿をお見せにならなかった。私など相手にしても仕方ないと気付いてくださったのだろう。
日が暮れてきたので売り物を片づけていると、フードを深くかぶった客人が現れた。
「いらっしゃいませ!もう売れ残りばかりですが、その分サービスしますよー!」
「どうして昨日来てくれなかった」
「はい?」
「待っていたのに」
その人がフードを少しめくると、はっきりと王様の顔が見えた。汗が、大量の汗が額からにじみ出てくる。
私を見つめる王様は無表情だ。
「店は、そろそろ閉めるのか?」
「あ、はい。もう夜ですし、客足も減ってきましたので」
それを聞いた途端一気に笑顔になった。
嫌な予感しかしない。
「では今から食事しに行こう」
「……は?」
「王宮だと肩っ苦しくて息がつまる、だから嫌なのだろう?それならどこか店へ行こう!」
「行きません!行きませんよ!私、このあと約束があるので失礼します」
「そう言わずに、俺と一杯やらないか」
「いいえ、遠慮します、それでは」
売り物をさっさと片付け店から出た。急ぎ足で家へと向かうが、案の定後ろを付いてくる。
王宮からやっと抜け出せたんだ、ジャーファルの目が怖くてさ、ちょっと飲みに行くぐらい付き合ってくれよ、と話かけてくるが絶対振り向かない。
王様の行動が理解できないな。殴られたことをまだ根に持っているのか。もう何度も謝罪したじゃないか!
何なら殴られた箇所を、あなたの周りにいる素敵な女性達に撫でてもらえばいいじゃない、もう私に構わないでくれ!
「今日は機嫌が悪いんだね。分かった、ならこれ以上は付きまとわないよ」
「……本当ですか」
「ああ!王宮に戻るよ。それじゃあ」
王様は急に立ち止まり、いさぎよく王宮へ帰って行った。
さすがに失礼なことをしてしまったか、と少し反省したが、翌日そんな反省は見事に打ち砕かれる。
朝から仕入れを済ませ売り物を並べていると、フードをかぶるその人が笑顔で現れた。
おはよう、今日も抜け出してきたんだ!と元気よく話す王様にメマイがした。
「今日は店を手伝うよ」
「何を言い出すんですか!駄目ですよ、王様がそんな」
「何がいけないんだ。俺の国にそんな規則はないぞ」
フードを脱ぎ捨て、さっそく接客を開始する王様。さあいらっしゃい!いらっしゃい!
王様の景気のいい姿に大勢の客が集まり、あっという間に品薄になったのですぐさま二度目の仕入れに走った。それでも追い付かず、仕入れた売り物は昼までに全て完売した。毎日必死に働いている自分が悲しくなる。何この差。王様どれだけ人気者なんだ。
「今日はこれでおしまいか?」
「はい、三度目の仕入れに走ったんですけど、もう売れる物がないと断られました」
「そうか!ならは昼から時間ができたな」
「ええ、そうですね……って!」
「なら一緒に食事をしよう!他国の高級食材を手に入れたんだ、君が嫌でなかったら王宮へ来ないか?」
ハッとした時には遅かった。
店を手伝っていただいた上で誘われたら、断るに断れないじゃないか。
ここはいさぎよく腹をくくるべきか。殴ったことを攻められたら、王様の気が済むまでとことん謝罪すればいい。
……少し他国の高級食材ってのも気になるしね。
店を片づけ、さっそく王宮へと足を運んだ。
王宮内に入るなり、ジャーファル様の叫び声が飛んでくる。シン!どこへ行っていたのですか!と。
王様の後ろで怯える私を見て、ジャーファル様は余計にその場の空気を真っ黒に染め上げた。
「王よ、何を考えているのですか」
「食事に誘っただけだ」
「仕事しろよ」
「ははは!後でするさ!それよりジャーファル、を食事の部屋へ案内してやってくれ」
うわ、うわあ、ジャーファル様が拳を震わせている。そんなジャーファル様に気付いているのか知らないが、王様はスタスタと歩いて行ってしまった。
やはりこの誘いも断るべきだったのかもしれない。一応ジャーファル様に謝罪をすると、あなたは何も悪くありませんよ、そうおっしゃってくださった。本当にこの方は天使だ。
案内された部屋は意外と落ち着いた雰囲気だった。王宮だからと言って全てが派手ではないらしい。
その後王様が部屋に訪れ、料理がどんどん運ばれてくる。祭りの日に食べ損ねた分を取り返すかの如く存分に食した。
食事の間に会話を振られ何を聞かれるのかと緊張したが、今までの生い立ちを聞かせてくれ、商売は何歳に始めたのか、シンドリアは好きか、そんな話ばかりで殴ったことに対する怒りなど全く見せてこなかった。
そして食事が終わり、くつろげる部屋へと案内される。
「このあと外せない仕事があってね、少しこの部屋で待っていてくれるかな」
「あ、それでしたら帰ります。私がいても迷惑なだけですし」
「そんなことはないよ、ゆっくりしていくといいさ。じゃあ、また後で」
王様が出て行くと広い部屋が余計広く感じた。
近くに窓があったので開けてみる。気持ちのいい潮風が優しく吹き込んできた。ここからだとバザールがとても小さく見える。また明日もあそこで働くんだなあ、と考えると少し可笑しくなった。それにしても先ほどの食事は美味しかった!人生何が起こるか分からないもので。
しばらくシンドリアの情景を眺めていると日が暮れ始めた。ああ、もうすぐ夜だ。
王様、仕事が長引いているのだろうか。なかなか戻ってこない。
このまま待っていると夕食も食べて行きなさい、って王様なら言いかねない。さすがにそこまでお世話になっては申し訳ないだろう。
そろそろ帰ろう。王宮の方に声をかけておけば大丈夫だよね。窓を閉め身支度を整えた。
扉を開けて廊下に出ようとしたら、一メートル先にまた扉があった。あれ、二重扉?入って来る時には全く気付かなかった。
その扉を開けようとするが、どういうわけか開かない。カギはついていないので開くはずなのに。押して引いて、左右にも力を入れるがビクともしない。この扉、壊れた?っていうか私が壊した!?まさか、そんな、ええええええええええ!!!!!
どうしよう!どうしよう!と焦っていると、廊下から足音が聞こえ扉前で止まった。何をしても開かなかった扉を王様はいとも簡単に開け、扉前で座り込んでいる私に慌てて声をかけてきた。
「どうかしたのか!?」
「帰ろうとしたら扉が開かないものですから焦ってしまって」
「ああ、それは俺のせいだ。カギをかけたから」
「……え」
「この扉は外側からカギをかけれるんだ。ほら、カギをかけておかないとはすぐに逃げるだろ」
「なにそれ、王様ひどいですよ!」
「そこで君に相談なんだけど、明日からジャーファルの部下として王宮で働かないか?」
「は!?意味が分かりません」
また何を言い出すのだこの人は!!
ジャーファル様の部下として?ふざけるにもほどがある。私のような知識の無いものが政務官の職務などできるわけがない!
そこに、ジャーファル様が王様の後ろから姿を現した。
「さん、申し訳ありません。私からもお願いします、王宮で働いてくださいませんか」
「ジャーファル様まで……何か理由があるのですか?」
「理由は王です。あなたが気になるとうるさくて、祭りが終わって以来全く仕事に手をつけないのです」
「へ……」
「今からバザールに行ってくるだの、食事に誘ってくるだの、これから先も同じようなことが続けば国務にまで影響が出てきます」
何となく事情は理解できた。王様が私を気にかけてくださっているせいで全く仕事をしない、ということらしい。
確かに、フードをかぶってバザールに来ていた王様の姿を見れば納得できる。いかにもコソコソしていたから。
この人は仕事を放ったらかしにして私を食事に誘いに来ていたのか。おいおいおいおい王様が何をしているんだ、何を。
「そういうことなので、さんお願いします。私の簡単な仕事を補助してくださるだけでかまいませんので」
「……分かりました。ジャーファル様にそこまで言われたらお断りできません」
「そうですか!ありがとうございます」
さすがジャーファルだな!と隣で笑う王様をジャーファル様と私はジトっとした目で睨んだ。
「たまにはバザールで店を出しに行ってもいいぞ、あと俺と食事をする曜日を決めよう。その時は好みの服を用意させるから楽しみにしていなさい」
私の予想だが、おそらく自分を殴った女として単に面白がっているだけだと思う。しばらくすれば王様も私など飽きてくるに違いない。
とりあえず機嫌よく笑う王様にイラっとしたので、つまずくフリをして足を蹴飛ばしてやった。
-END-
あとがき
祭りの日、王様はお酒飲んでいません。素であんなことしてきたんですね。
いやあ、覇王様は真っ黒なイメージしかありません^^
ジャーファルも真っ黒でね、王様と政務官そろってブラックホールみたいなシンドリア王国が素晴らしいです。
次回はこの話の続きとしてジャーファル夢を書きます。