――皆、何かを想う気持ちがあるからこそ 強いのだ




純血人生 第2部




16話




昨夜はリヴァイの大胆な行動から一睡もできずに朝を迎えた。
リヴァイが目覚めたら何と声をかければ良いか、どう行動したら良いか、だって、唇を重ね合うなんて……まるで!などと一人混乱の夜を過ごし、おかげで今日という一日は寝不足日和となったわけだが。
いざリヴァイが目を覚ましベッドから起き上がると、いつもと変わらぬ素振であり、漠然とした態度を見せてきた。
次第に考えすぎた自分がバカバカしく思え、洗面台の鏡に映る究極とも言える寝不足な顔を見るなり更に呆れる様だ。
今日一日、目の下に浮かぶ色濃いクマをさらしながら何とか仕事を終えたにせよ、何度居眠りをしただろう。それでもまだ眠気が襲ってくる。
よくよく考えると、例の男に睡眠薬のような薬を飲まされて眠りについたのが最後、それ以降は一睡もしていない。
(……ああ、頭がふらふらする)
兵舎の廊下をまっすぐ歩いているつもりでも、たびたび壁に肩を打ちつけている現状から、足元がどれだけ安定していないか自分でも分かる。
いい加減に熟睡しなければ身体がおかしくなりそうだ。今夜はリヴァイのベッドではなくソファーで就寝しよう。
廊下から階段に差しかかり上らなければならない段数を見上げると、身体も気分もドッと重くなった。幻聴だろうか、階段から意地悪な笑い声が聞こえてくるようで。いつもの見慣れた階段も、疲労した今は何かの試練に思えてならない。
壁に手を添えながら一歩を踏み出すと、後ろから名前を呼ばれた。久々に聞く馴染みのある声に振り向けば、その人物は廊下の角からひょっこりと姿を現し、もう一度私の名を呼んできた。

、やっとみつけた」

「ああ!ペトラ!?」

「しー!大きな声出しちゃダメ!小声で喋ろ」

「おっと、ごめんごめん……」

「相変わらず遅くまで仕事してるんだね。お疲れさま」

「ペトラこそ」

私の身体をふわりと優しく抱き締めてくる人物は、友人であるペトラだ。
ただ、私達が会って話をするのは、いつもこっそりである。ある理由から、皆の前で堂々と会うことは許されない間柄となっているのだ。
その理由というのも、とても単純なもので。言わば一部の兵士が、「兵士が生活をする兵舎で女二人騒がしく話されては迷惑だ」「気が散る」「あの二人は離すべきだ、士気が落ちる」などと私達二人が仲良くする姿を気にくわない者からの相談が幹部へ集中したことが原因だ。
逆に、「仲良きことは最高じゃないか」と笑顔を向けてくれる兵士もいたのだが、人間誰しもが同じ心を持っているはずもなく。
結局、私達二人はエルヴィンに呼び出され執務室で注意を受けた。
それからというもの、一ヵ月、二ヵ月の内に一度だけ会おうと約束をし、日常の中で私達は他人のふりをするようになったのだ。
腕に力を込めてくるペトラからは、女性らしい香りなど一切しない。外見とは釣り合わぬような、汗と土の臭いが染みついている。しかし、私はそんなペトラが大好きだ。
腕の力を弱め私から身体を放すと、素早く手を繋いできた。食堂で話そう、と笑顔で言われ、こちらも笑顔で二度うなずく。
もうすぐ深夜となる時間帯である為、兵舎内は不気味なほどの静けさで満たされていた。その中を突き進み、真っ暗な食堂へと足を踏み入れ一番目立たぬ奥の席へ腰かける。
ランプであるロウソクへ火を灯すと、久々に見るペトラの顔がほんのりと照らされた。

「おお、ペトラだ」

だ」

「真似された!……聞いたよ、リヴァイ班に抜擢されたって」

「うん、あまりにも嬉しくて実家に手紙まで書いちゃった」

「待って待って、抜擢されて嬉しかったの?」

「そりゃそうだよ。なんたって兵長直属の部下になれたんだもの」

そういうものなのだろうか。リヴァイが部下に慕われているのは知っているけれど、ペトラをここまで喜ばせる存在だとは驚きだ。
昨日ベッドを破壊された記憶が重なり、どうも納得できない。ああ、ダメだ、思い出すのはよそう。

「それにね、エレンも素直でいい後輩だよ」

「ペトラに後輩だもんなあ……兵舎に来た頃はおどおどしてたのに、今となれば大先輩だね」

「もう、昔のことは言わないで」

「初めて壁外調査から帰ってきたとき、マントを腰に巻きつけてたから何事かと思ったら……」

「ああああ!!ひどい!」

「ごめんごめん、そんなペトラも全部ひっくるめて大好きだよ、私は」

「うん、知ってる」

「知ってるんだ!」

声を抑えて笑い合う今、最高に楽しい。一日中のしかかっていた寝不足もどこかへ消し飛んでしまった。不思議なものだ。
するとペトラは、テーブルの上に添えていた私の手を上から包み込んできた。その右手には何故か歯型がついており紫色へ変色していたもので、どうしたのかと声を上げてしまう。その問いには、エレンとの信頼の証なの、と返事を返されたのだが。

「今その話は置いといて。ねえ、。大丈夫なの?」

「へ、何が」

「ハンジ分隊長から聞いたよ。つい先日さらわれて、昨日帰ってきたばかりでしょ。何かされたんじゃないの?」

「あ、何ともないよ、大丈夫!リヴァイとエレンが地下街まで救出に来てくれたおかげで」

「無理しなくていい、怖かったのなら怖かったって言ってよ」

「そりゃ怖かったけど……ペトラさえ良ければ、さらわれて救出までの成り行きを一から話そうか?」

「うん。ぜひ、聞かせて」

真剣な表情を向けてくるペトラに、駐屯兵団の兵服を着た男にさらわれたこと、幌馬車で地下街まで移動したこと、起きたら全裸であったこと、薬を飲ます為に口移しをされたこと、リヴァイとエレンが救出にきてくれたことからフリルの存在、私がさらわれたのは東洋人であるがゆえだと、全てを話した。
話し終えた今、私の手をにぎるペトラの手が震え、徐々に力強く握り締めてくる。

「あの、手の力が尋常じゃ……いっ、いたたたた!」

「なんなのそいつ、女を何だと思ってるの。私がそばにいたら半殺しにしてやったのに!くっそ!」

眉を吊り上げるペトラの目には涙が浮かび、溢れるように右目から一筋の線となりテーブルへとこぼれ落ちた。
即座に目元を兵服の袖で拭き取っては、鼻をすする。

「ああ、ペトラ!泣かないでよ、ごめん、ごめんごめん」

「悔しい。悔しい悔しい悔しい。友達が怖い思いをしている時、私ったら何もできなかった。ただ古城で待機してた」

「……ペトラがこうして心配してくれた事実を知れて、それだけで十分嬉しい」

「心配どころか、気が狂いそうだったけどね。だから早くこうして会いたくて、今日は夕方から待ちかまえてた。が仕事を終わるの」

「待って、夕方って……それ何時間前」

「なめないでよ。根性だけはあるんだから」

続いて目に涙を浮かばせるのは私の番であった。
下唇を噛み涙を流すまいと堪えるが、ペトラを前にして感情を殺すことなどできずテーブルの上へポタポタと雫が落ちてしまう。
二人して手を握り合いながら泣き合うだなんて、通りかかった者に見られたら、どのように思われることか。
次第に涙は止まり、お互い鼻水の垂れた顔を指差して笑い合う始末だ。涙と鼻水で汚れたペトラの顔ときたら、兵士とは思えないほどに無邪気で可愛い。
そこでペトラは思いついたように服の中へ手を忍ばせ、何かを取り出してはテーブルの上へと置いた。
テーブルの上へ置かれた二つのそれは、銀の包みで包装されており、いわゆる贅沢品だ。

「これ、どうしたの?高級な焼菓子だよね!?」

「昨日ね、兵長がいない間に買いに行って来たの」

「え」

と二人で食べようと思って」

「高かったでしょ?お金払うよ!」

「バカ、そんなのいらない。私の気持ちなんだから。ね、食べよう!食べよう!」

ペトラに手渡された銀の包みを開いていくと、それはそれは甘い香りが鼻についた。
いただきます、と二人で声を合わせ焼菓子の端部分を噛みきる。途端、目を見開いてしまうほどに優しい味が口内に広がった。
美味しい、これは美味しい!以前にエルヴィンからいただいたこともあるが、ペトラと一緒に食べるというだけで、違った美味しさがある。
ありがとう、と何度もつぶやきながら小さな焼菓子を数分かけて食べ終えた。

「美味しかった、買ってきて良かったよ!」

「口の中がまだ甘い……ああ、幸せ。ありがとう、ペトラ様」

「よしよし。また買ってきてあげましょう。やっぱり甘いものは定期的に食べないと」

「ペトラは特に甘いものが好きだよね」

「そういうも好きでしょ」

「あ、知ってた?」

「ばればれ」

本日何度目だろうか、二人で向き合い、笑う。
もっと、もっと、昼間にどこかへ出かけたり、一緒に昼食を食べたり、たくさんペトラとの時間を作りたいところだが、現状はそういうわけにもいかない。
ペトラは調査兵団に属する兵士、私は兵士達の生活面をサポートをする一般人。
二人が明るく笑い合って何がいけないのだ、と言いたいのは山々だけれど、場所を考えればそのようなワガママは言えないのだ。
調査兵団とは飛び抜けて死亡率の高い兵団である。そのような兵団に属する兵士が集う兵舎の中で、明るい笑い声を発して不快に思う者がいても、何ら不思議ではない。自粛するのが当然と言えるだろう。
しかし、考えてしまうのだ。ペトラと楽しい時間を過ごしたい、と。
するとペトラが、「今同じこと考えてるだろうね」そう声をかけてきた。苦笑いでうなずけば、再び手をにぎられまた声を抑えて笑い合う。

「でもさ、深夜にこっそり会うなんて恋人同士みたいじゃない?うん、なら私は大歓迎かな」

「よし、付き合って堂々と皆の前に出てみる?」

「それいいかも。私達のことを良い目で見ない兵士達もびっくりするんじゃない?」

「じゃあ、ペトラは女役で、私が男役だね」

「どう考えても反対でしょ、私が男役でしょそこは!……そうだ、ねえ

一つ教えて欲しいことがあるの、と急に態度を変え遠慮がちに発言をするペトラに首をかしげながら、何でもどうぞ、そう返事をする。
何を聞かれるのか構えていると、予想外な一言が発せられた。
なんと、「は、兵長の笑顔を見たことある?」これである。
改めて考えると、あまり笑わない人なのでまじまじと見たことは無いけれど、子供の頃から考えると何十回かは見ているだろう。
ペトラに、見たことあるよ、と返事をすれば驚いた表情を向けてきた。

「笑ったらどんな顔になるの!?」

「なんかね、悪人みたいな顔」

「うそ、悪人!?」

「ペトラみたいに、ふわっと優しく笑うような顔は見たこと無いかな」

「そうなんだ……それでも、兵長も笑うんだね」

「見てみたい?」

「うん、一度はね。上官の笑顔が見れたら部下としては最高の喜びだもの」

「私はペトラの笑顔の方が何百倍も好きだけどな。あんな悪人っぽい笑顔より」

「おい、誰が悪人だって」

突然、どこからか降ってきた低い声。
ペトラと私は固まるように目を見合わせ、即座に声のした方を振り向いた。
テーブルの真横にて、腕を組み仁王立ちする寝巻姿のリヴァイをランプが不気味に照らしている。
その姿を目の当たりにするなり二人して悲鳴を上げそうになったが、何とか抑えることができた。
どこか不機嫌なオーラを放つリヴァイときたら、笑顔とはほど遠い表情をしており、何だかペトラが気の毒に思えて仕方が無い。
私は何を思ったのか、リヴァイの口元に手を伸ばし口の端を引き上げてやった。ペトラに、こんな感じ!と告げると、あわてる素振りをしながらも、次第に笑顔となりリヴァイの顔を楽しそうに見つめていた。

「てめぇ、人の顔で遊びやがって」

「ペトラがね、リヴァイの笑顔を見てみたいって」

私の発言にペトラは焦るが、彼女のあわてふためく手をにぎり、話を続ける。

「それは聞こえてた」

「はい?盗み聞きしてたの!?」

「違う、聞こえてきたんだ」

「結構小声で話してたはずなんだけど。まあそれよりも、上官なら部下の願いごとを叶えてあげるべきでしょ」

すると私の隣に設置された椅子へリヴァイが腰かけてきた。
何を思ったのかペトラを見据え、意外だな、などと言い放つもので変なことを言い出さないか不安がよぎったが、そのような心配は空振りに終わる。

「……意外って、どういう意味ですか、兵長」

「ペトラ、お前は男に負けずと身体を鍛え、誰よりも負けず嫌いであり、女だからとなめられないよう無理に暴言を吐く癖があるのを知っている」

「ええ!?そんな、どうして知ってるんですか!」

「逆に、後輩の面倒見が良く、落ち込んでいる奴をはげまし、何かあれば陰で一人こそこそ泣いているのも知っている」

「え……」

「常に強くあろうとするお前が、俺の笑顔を見たいだの気持ち悪いこと言いやがって……まさしく意外だ」

リヴァイは腕を伸ばし、ペトラの頭を二度優しく撫でた。その時の表情は、ほんの少し口の端が上がっていたような。
可愛い後輩を褒め称えるような、何とも言えぬ微笑ましい雰囲気にこちらまで笑顔になってしまう。
上官らしく部下の行動を見ているんだなあ、そう感心していれば、「それに比べて……」とペトラから視線を移し、何故か私を見据えてきた。

「ん、なに」

「ペトラに比べてお前は鈍臭い、身体はたるんでいる、人の気持ちに一切気付かねぇ」

「はあ!?」

「そんなお前らが友達同士など、笑えるな」

「もう、リヴァイうるさい!出てってよ、今は私とペトラの時間なの!」

「うるせぇ、もう寝る時間だ。ペトラも、部屋まで送ってやるからさっさと寝ろ」

せっかくの楽しい時間は、リヴァイによって終止符を打つこととなった。
小声を漏らしながら三人で静かな廊下を歩きペトラを部屋へ送り届け、リヴァイと私はいつもの部屋へと向かう。
部屋へ入れば、昨日壊されたベッドは綺麗に無くなり、リヴァイが使用するベッドだけが堂々と構えていた。「片付けておいた」と言いながら部屋へ入るリヴァイは、疲れたとでも言うようにベッドの脇へと腰かける。

「おい、何突っ立ってる。早く風呂へ入って来い」

「あの、リヴァイ。私今日はソファーで寝ていいかな」

「……どういう意味だ」

「リヴァイと寝ると、寝不足になる。次の日が辛いよ」

「寝不足だ?」

「何か……妙に緊張するというか、昨日だって、寝る前にあんなことされると」

「こっちへ来い」

「え」

「いいから来い、早く」

恐る恐るリヴァイの前へ行くと、隣へ座れとベッドを指差してきた。少し間合いを開けベッドの脇へと腰かける。
しかしそんな間合いは一秒もせずして詰められ、私の肩に頭を乗せてきた。

「……俺とこういう関係は嫌か」

「そんなの、分からないよ。リヴァイは、もう私の一部みたいなもので」

「家族のような存在だと、そう言いたいのか」

「……だから、分からないってば」

「あのな、一つ言っておきたいことがある」

「待って、何言い出す気なのさ、いいよいいよ、言わなくていいよ!」

「お前がどういう人生を送ろうが、俺はおそらく一生お前を想って生きるぞ」

うっとうしいほどお前の存在がでかすぎてどうしようもねぇ、と背後から脇腹に腕を回され抱き寄せられた。
大切にされていると改めて実感し、身体の底から嬉しい気持ちが溢れ返ってくる。
私だって同じだ、リヴァイをとても大切に思っている。幾度となく助けられ、ぶつかり合いながらも支えられてきたこの人に、こうして肌を触れ合う距離まで詰められても嫌などとは一切思わない。
でも正直な気持ちを言うならば、昨夜口づけをされたとき、少し怖かった。リヴァイの存在が怖いと、そういうわけではなくて。何かが、目に見えない何かが、崩れて行くようで怖かったのだ。今もそう、何かが崩れて行くようで、怖い。
戸惑う私の気持ちなど知るよしも無く、追いつめるようにリヴァイは言葉を積み重ねてくる。
「まあ、誰を想うかはお前の自由だ。好きにすればいい……ただ」と、そこで一度言葉を切らした。何故か無言の間が続き、妙な緊張が走る。

「ただ……なに?」

「……できることなら、俺と向き合って生きて欲しい」

思わず首をかしげた。リヴァイと向き合って生きるなど、もう既に現在もそうじゃないか。
私はリヴァイと共に生活をしているのだ。向き合って当然だろう。今更改めて何を言い出すのだろうか。
――と、わざとらしい感情を作り出し、何かが崩れる怖さを回避すべく、芝居をする。

「そんなの、昔からそうじゃない」

「……おい、こら、待て。お前の考えている、向き合う、の意味は違う気がする」

「何が違うの?」

「俺が言いたいのは……俺をお前の一番にしろってことだ、分かるか?」

「うん、今も昔もリヴァイが一番だよ。それがなに」

私の返答にリヴァイは眉間にしわを寄せた。まるで、本当に分かってんのかこいつは、そのようなセリフが聞こえてくるようで。
分かってるよ。これだけ行動で、言葉で、表現されたら嫌でも分かる。私はそんなリヴァイの気持ちから少なからず逃げていることも、十分に分かっている。
おそらくリヴァイは私と恋仲になってほしい、そう言いたいのだろう。今までの意味不明な行動も、何が目的かは薄々気づいてはいた。
ダメだ……怖い、今のリヴァイがいなくなるようで、失うようで、とても怖い。
――このまま雰囲気に流されてはいけない。しっかりと自分の気持ちを伝えて理解してもらうべきだ。

「あの、正直な気持ちを言ってもいい?」

「いちいち許可を取らなくても、言いたいことがあるなら言えばいい」

「分かった、言うよ。私は、あの、あれよ」

「なんだ、はっきり言え」

「リヴァイが、その……とても大切で、大切すぎて、そういう関係になるのが怖くてですね」

「……ふ」

「あああ……恥ずかしいこと言わせないでよ、バカでしょ!リヴァイも私もバカだ!」

「落ち着け。それにしても、大切すぎて、って。なんだお前、大胆だな」

「はあ!?リヴァイがガンガン攻めてくるからでしょ!」

耳まで熱くなり息を荒くしていると、困らせて悪かった、と薄く笑いながらリヴァイが耳元で謝罪をしてきた。
抱き寄せてくる腕の力が強まり、脇腹を掴む手が突如として妙な動きをし始める。くすぐるかのように、脇腹の肉を掴んでは放し、また掴んでは揉むように指先を動かしてきた。
耐え切れずに笑い声を上げてしまうと、もう片方の脇腹にも手が伸びてくるなり激しくくすぐられる。
この突然行動、何かがおかしい、そう勘付いたときには自然とベッドへ押し倒されており、目の前にあるのはリヴァイの顔だった。

「もう、何するのさ!」

「今までの延長線でいいんだ。もう少し、俺を必要としてくれ、求めてくれ、何より甘えろ」

「また甘えろ発言!?」

「ああ、そうだ。辛い時は抱きついてこい、寂しい時も抱きついてこい、弱い部分を隠さず見せろ、全て受け止めてやる」

いつ死ぬか分からない俺が言えるセリフじゃ無いかもしれねぇが、と付け足し私の首元へ顔を埋めてきた。
リヴァイは真っすぐだ。そして、憎らしい発言や行動の裏側は優しさの塊で出来ている。
世間では人類最強と言われているが、この姿を皆が見たらどう思うだろうか。この温かい心を持つ人間らしい姿を。
――リヴァイ、ありがとう。

「……やっぱり、今日もリヴァイのベッドで寝ていい?」

「寝不足になるんだろ?いいのか?」

「今日は疲れすぎてどこでも熟睡できそう」

「そうか、なら寝るぞ」

「あ、その前にお風呂入ってくるよ」

「明日の朝入ればいいだろ」

「ええ!?でも汚いよ、いいの?」

「お前なら許せる」

リヴァイの優しさを直に感じることができたこの日、久々に熟睡した。
ふと眠気から意識が軽くなり始めた時、唇に柔らかい何かが当たった。それが現実なのか、夢の中なのかは分からない。
一つ言いきれることは、今、とても安心しているということ。

さあ、ぐっすり寝て、明日も精一杯頑張ろう。







*NEXT*







-あとがき-
第2部、スタートしましたー!!
話数は第1部から引き継ぐことにしました。
ペトラ、必ず登場させようと考えていた一人です。彼女は強いです、でも、どこかもろくて……。大好きだ。
今後も壁外調査へ行くまでの間に、優しく楽しく登場していただきます。
そして兵長ですが、第1部のまま気持ちが通じていないようでは第2部にした意味が無いので、更なる行動へ出てもらいました^^笑
まあ、こんなね、甘い展開なようで良く読むと結構微妙な展開だったりするわけで、そこにエレンや団長やハンジが入り込んで……という第2部になる予感です!おいおい
これからも、じっくりまったり書いていきますので、宜しくお願いします。