純血人生 23






経験の差とは、よく言ったものだ。
エレンが壁外へ連れ去られたと聞かされた上に、ナナバさん達が死亡したとの報告を付け加えられ、無意識に耳へ手をかけ引きちぎろうとする私の行動をリヴァイは見逃さなかった。
即座に腕を鷲掴まれ、一喝されてしまう。
極めつけには、「いちいち感情的になるな」リヴァイより言い放たれた厳しい一言であった。
しかし、そう簡単に次から次へと災難を受け入れられるほど、私は免疫を持ち合わせていないのも事実。

「……ペトラ達も死んでナナバさん達まで……どうなってるのさ」

「こら、また耳に手をかけるな。しかもお前、なんだその唇、真っ赤じゃねぇか」

口を開けろ、とアゴを掴まれ無理に下唇をめくられると、私の口内を見てリヴァイは目を細め舌打ちをした。
そりゃそうだろう。口の中が血の味で支配されているのだから、あふれ出た血液で唇が赤に染まっていてもおかしくはない。
先ほど、耐えきれない感情から口元に力が入り下唇と口内を噛みちぎってしまったのだ。
痛みは無い。ただ、現実を受け入れたくないという気持ちだけが渦巻いている。
すると、リヴァイは懐から手ぬぐいを取り出し、私の唇に付着する血液を拭き取り始めた。

「うぶっ、ちょ、やめて、血液を布で拭いたらシミになる!」

「ああ、そうだな」

「そうだな、じゃなくて!」

「うるせぇ、黙って拭かれてろ」

お前はもっと精神面を鍛える必要があるな、そうリヴァイはつぶやきながら、口内に手ぬぐいを容赦無く突っ込んできた。
私が苦しむ悲鳴を上げる中、噛みちぎった箇所を的確に触られ、今まで感じていなかった痛みが覚醒するかのように現れ始める。
更には、まるで傷口を押し広げるような指の動きに、胃が熱くなり、吐き気が込み上げてくる始末だ。
苦しさと痛みが重なるあまり、リヴァイの胸を叩き意志を伝えるが、みごとに無視された。
しばらくすると口内から手を引き抜き、私の血液と唾液で汚れた手ぬぐいを丁寧に折り畳んでは懐へと仕舞う。
咳き込みながら新鮮な空気をいっぱいに吸い込むと、冷たい空気が傷口に触れ、再び血液があふれ出てきた。
口元を手で覆いながら鼻で呼吸を繰り返す私に、なあ知ってるか、と平然に声をかけてくる様は腹立たしいったらない。
睨みつけながら低い声で、何が、と聞き返すと腕が伸びてくるなり少々乱暴に耳を引っ張られた。

「お前が耳を引きちぎろうと、口内を血で満たそうと、死んだ奴は生き返らねぇぞ」

「いっ、痛い……!やめて!」

「仲間が全員死亡してしまい一人取り残された奴なんかが良く自虐行為に走る、今のお前も似たようなもんだろうな」

「……死んだ人が生き返らないのは知ってる。さっきは、つい力が入ってしまっただけで」

「ならいいが。まあ、そういう奴には更なる痛みを与えると大体は大人しくなるんだ。気分はどうだ、落ち着いたか?」

そう言いながら、私の耳から手を放し、組んでいた足を優雅に組み替えた。
いかにも場馴れしているといった風貌に、言い返す言葉もない。
一応、手ぬぐいが汚れてしまったことに謝罪を申し出ると、お前の仕事が増えただけだろ、と洗濯の話に置き換えられ乾いた笑い声を上げてしまった。
一度気合いを入れ直す為に、自分の両頬へ喝を入れ、深呼吸。
感傷に浸るのはやめよう。今、私があれやこれやと考えてもどうにもならないだろう。あとでじっくり向き合えばいい。
ふと前を見れば、先遣隊を務めた兵士は力なくうな垂れ、司祭はいまだに一点を見つめたまま全く動かないでいる。
皆、それぞれ抱えることは違えど、荷馬車は容赦なく先へと進むのであった。

二十分ほど駆け抜けたところで、トロスト区内で最南端となる壁の端へとたどり着いた。
前もってトロスト区の駐屯兵団が用意していたリフトに人間はもちろんのこと馬も乗り込み、壁の上へと引き上げられていく。
何でもエレンの連れ去られた場所は壁門の無い場所らしく、現場までリフトの機材を馬に引かせて運ぶのだという。
馬を壁内から壁外へとリフトで移動させなければ、エレンの救出に向かうこともできないとリヴァイが教えてくれた。超大型巨人と鎧の巨人との戦闘に立ち会った兵士達も、現場で立ち往生しているとのことだ。
次から次へと壁上へ引き上げられる中で、私達の乗っていた荷馬車はここで待機かと思いきや、同じくリフトへと積み込まれ引き上げられる。
以前、必死に螺旋階段を上った記憶が信じられないほどあっという間に壁上へと到着し、リヴァイの手を借りながらリフトを降りた。
兵士達は手際良く作業をこなし、馬にリフトを繋いでは準備完了の合図を出す。そして上官達を先頭に、現場へと進行を開始した。
そこで私は、私達も現場へ向かう必要があるのか、と少しばかり疑問に思っていたことを小声でリヴァイに訊ねると、気の引き締まるような返答を返されることとなる。

「確かに壁外へは行かねぇが、重大な役割もある」

「役割?」

「どういうわけか、超大型巨人の野郎が多くの兵士に致命傷を与えたらしい」

「……え」

「この壁の先に、馬を待っている兵士もいれば、救助を待っている兵士もいるということだ」

手の空いている俺達が今何をすべきか見えてくるだろう、そう告げられ私は大きくうなずいた。兵士達の介抱、これだ。
そうと分かればいち早く駆けつけたい一心から、のろのろと走る荷馬車に少々苛立ちを感じたが、他の馬達がリフトを引いているだけにそう俊敏に走行できるはずもない。ましてやここは壁上だ、速度を上げて万が一のことがあれば笑い話にもならないだろう。
ゴト、ゴト、とリフトの機材が重い音を立てる中で「索敵陣形」という難しい言葉と、「エレン」の名前があちらこちらで飛びかっていた。無駄な話し声などは一切聞こえず、今から戦場へ向かう皆の不安と焦りから、緊張の空気が辺りを支配している。
正直に言うと、エレンが壁外へ連れ去られたと聞いた時、ピンとこなかった。
まさかの事態に誰もが驚いているに違いないだろう、そう思っていると、荷馬車の横を走行していた兵士が、「女型の次は、超大型巨人と鎧の巨人に狙われるなんて、エレンも大変だな」などと溜め息を吐きながらつぶやいた。
……女型にも狙われていた?
古城でエレンに聞いた話によると、女型は憲兵団に所属する同期の女性かもしれないと聞かされた。
そしてウォール・マリアを破壊した超大型巨人と鎧の巨人も、新兵二人が巨人化した姿であったと先遣隊の兵士が言っていた。
女型に加え、超大型巨人と鎧の巨人も、エレンの同期ということになる……?
一体、壁の中で誰が何を計画して、今どうなっているというのか。はっきり言って、謎だらけじゃないか。
壁の内であろうと、外であろうと、毎日が命がけの世の中だ。
……何故だろう。あまりにも非現実的な内容を考えているせいか、昨日までの日常が次から次へと頭に浮かんでくる。
兵舎の中で洗濯をして、干して、廊下の掃除をして、駆けまわって。
今なら、どれだけ洗濯物が山積みにされていようと、笑顔で洗える自信がある。鼻歌なんかも添えて。
当たり前の日常が続くとマヒするのだろうけれど、いざ日常が塗り替えられると、どれだけ幸せな時間であったか思い知らされてしまう。
――兵舎の中を駆けまわる日常が、恋しい。
顔をうつむかせ、ヒザの上で拳を震わせていれば、リヴァイがヒジの先で私の腕を軽く突いてきた。
「どうした、深刻な顔しやがって。可愛くねぇ」と気の利かない言葉を添えながらも、皆に見えぬ下の位置へ手を引きずり下ろされ、包み込むように握られる。

「……こんな時だけど、私、早く兵舎に帰って洗濯がしたいよ」

「俺もだ。気の済むまで部屋の掃除をして、風呂に入って、ソファーでくつろぎたい。あと香りの良い紅茶をお前が淹れてくれたら最高だな」

「へ、リヴァイでもそんなこと考えるの?」

「常に考えてる」

「そっか……一緒だね」

事が落ち着けば兵舎に戻るだろうから後少しの我慢だ、そうリヴァイは私に言い聞かせ、手に力を込めてきた。
リヴァイは不思議な人だ。何故だか、彼の言動は私を落ち着かせてくれる。今も、ほら、心がふわりと軽くなった。
先ほどのように無理矢理な行動をしてくるときもあるけれど、やはり、長年を共に過ごしてきただけのことはあるのかもしれない。
こちらからも手を握り返し、小さく頭を下げた。

「……けど私ね、こう見えても結構強いから、意外と平気なんだけどね」

「嘘つけ。さっき口の中血だらけにしてた奴の言うセリフか?ただの強がりだな」

「うるさいな、いいでしょ!ちょっとぐらい強がっても!」

「こういう時こそ甘えるべきなんじゃねぇのか。辛いなら辛いって正直に言え」

「皆が不安になってる時に、そんなセリフ絶対言いたくない」

「こうして小声で喋ってんだ、誰にも聞こえてねぇよ。なんなら、ほら、荷馬車の揺れを利用して抱きついてこい」

「ちょっと待って。おかしい、話が違う方向へ行ってる気がする。しかも荷馬車の揺れって何よ、エレンが大変な時に変態発言やめて」

私が突き放すような文句を並べていると、小さな石にでも乗り上げたのか、荷馬車が少し揺れた。
その瞬間、「今だ、ほら、早く来い」などと真剣な目で言い寄って来るリヴァイを無表情で見つめてしまった私は冷たい人間なのだろうか。
とはいえ、心の中はあたたかい。全てはリヴァイの優しさのおかげだ。
落ち込む時間を与えないかのように、こうして会話をしてくれているのだと、何となくだが分かる。
無表情から徐々に笑顔へ切り替え、「ありがとう」とリヴァイへ告げると、繋いでいた手の甲を指先で撫でられ、くすぐったくて仕方なかった。

数時間後、現場へ到着し、あまりの悲惨な有様に言葉を失ってしまった。
壁上は大きく削れ、焼け焦げた臭いが風と共にただよってくる。
負傷している兵士は皆が皆、身体のどこかに火傷を負っていた。少し肌の色が変色する程度の者から、皮膚が大きくただれている者まで、症状は様々であったが、皆、生きているとのこと。
まず火傷の応急処置としては、冷やすことだ。しかし、この壁上でそのような水は無い。
先遣隊の兵士は火傷を負った負傷者を見ていたはずなのに、どうして報告しなかったのか、などと心の中で怒りが湧き上がったが、そこまで告げる余裕も無かったのだろうと自分で自分の怒りを抑えた。
それに、応急処置とはいえ数時間が経過している。ここから先の処置としては、一刻も早く治療を受けれるトロスト区へ帰還することが目標となるだろう。
負傷者の火傷に目を細めていると二人の兵士が、「壁下に二体の巨人がいますので、馬を下ろす前に討伐してきます!」と上官に声をかけ、躊躇することなく壁外へと飛び下りた。立体機動装置があるとはいえ、思い切った行動に背筋がぞくりとしてしまう。
その間にも、壁外へと進出する兵士達はリフトの準備へ取りかかり、壁内へ残る者は負傷者への対応を開始した。
少しの時間も無駄にしてはならないと必死に作業にあたっている最中、肩を軽く叩かれた。反射的に後ろを振り向くと、そこにはエルヴィンがおり、こちらへ来てくれ、と耳元で小さく声をかけられる。
即座に立ち上がり、先へと進むエルヴィンのあとを小走りでついて行くと、そこには。

「ハンジ、連れて来たぞ」

「……どこ、こっちへ来て」

、と弱々しい声で私の名前を呼んでくる人物は、顔に大きな傷を負いながら力なく横たわり、いかにも衰弱しきっているハンジさんであった。
黙り込む私に違和感を感じたのか、もう一度名前を呼ばれる。
恐る恐る真横まで近寄り、ヒザを折り曲げて顔をのぞき込むと、やっと私が視界に入ったのか、腫れたまぶたを震わせながらこちらを見てきた。

「お、みつけた……だ」

だ、じゃないよ!こんな……」

「そんな悲しそうな顔しない、で……ぐ、う、ガハッ!苦しぃ……うぐ、うぅっ」

「ハンジさん!?どうしたの、どこが苦しいの!?」

「胸が苦しい、頭も割れそうに痛い、それに全身も……力が入らない……グホッ!ゲハッ!」

「ええ!?そんな……」

「呼吸するのも辛い……、お願いがあるんだ。最期に、私を抱き締めて……」

「最期だなんて、何言ってるのさ!やだ、やだよ、どうしよう、どうしようエルヴィン!」

ハンジさんが!と叫びながらエルヴィンの顔を見上げると、何故か口元を引きつらせていた。
エルヴィンは落ち着いた態度でヒザをつき、「演技をするほどの余裕があるなら、大丈夫そうだな」そうつぶやくと、「痛いのは本当だから!」とハンジさんが元気な声で言い返す。
(……ん……演技!?)
何となく場の空気を理解し、ゆっくりとハンジさんを睨み下ろせば、あわてて謝罪の言葉を述べてきた。
まるで兵舎でのやり取りと変わらない雰囲気に、怒りよりも安堵の気持ちが湧き起こり、鼻の奥がツンと痛くなる。
目にあふれてくる熱いものを、どうにか引っ込めようと耐えていると。

「あ!ダメ!泣かないで!リヴァイに見つかったら怒られる!私が!」

「分かってる!分かってるよ、こんな大変な時に泣かない……絶対泣かない!」

「言葉と目元が矛盾してるのに気付いて!……ああ、もう、そんな目にいっぱい涙ためて、重たくないの?」

目元にハンジさんの手が伸びてきたかと思えば、下まぶたに指先を添えられ、涙がほろりとこぼれ落ちてしまった。
鼻をすする私に、「驚かせてごめんね、こんな傷すぐに治るから」などとつぶやきながら傷だらけの顔に笑みを浮かばせてくる。
笑顔は嬉しいけれど、心配をかけまいと無理しているのが見え見えだ。
だって、ほら、目に添えられている指先なんて、力が入らないのか小刻みに震えている。

「……え、え、!?泣きやむどころか、余計にあふれ出てきてるけど!?どうしたの!」

「おい、こいつを泣かせた奴は誰だ」

「うわあ、最悪のタイミングで現れた」

「そうか、てめぇか、クソメガネ」

「ちょ、待って、今の私は重症だからね!?」

背後から現れたリヴァイはハンジさんを睨みつけるなり、「……てめぇが重症なんて、似合わねえな」そう低くつぶやく。
リヴァイの言葉にハンジさんは目を伏せ、謝罪の言葉を繋げてきた。目の前で大切な仲間を奴らに連れ去られてしまった、と一言添えて。
一瞬だが無言の空間が現れ、皆の表情が険しくなる。
そこへ一人の兵士がエルヴィンに駆け寄って来た。何でも、エルヴィンの馬を今からリフトで下ろすとのことだ。
エルヴィンは兵士にうなずきながら、ハンジさんの手に自分の手を重ね、「あとは俺にまかせればいい」と、何とも男らしいセリフを言い切る。
ハンジさんは驚く表情を浮かべつつ左胸に拳を当て、大きくうなずいた。リヴァイも信頼の眼差しでエルヴィンを見つめている。
二人の意志を受け取ったエルヴィンはその場から立ち上がり、一歩を踏み出した。しかし、数歩進んだところで何故かこちらへと引き返してくる。
戻って来るなり、私の前でもう一度ヒザをつき、遠慮がちな笑顔を薄っすらと浮かべてきた。

「言い忘れていた。、すまないな、このような危険に巻き込んでしまって」

「そんな、今更何言ってるのさ。私も壁の中で生きる一人の人間なんだから、巻き込むも何もないよ」

「はは!そうか……本当に、強く育ったものだ。よし、では行ってくるな」

心の中で、エルヴィンが、エレンが、兵士の皆が無事に帰還するよう祈りながら、「行ってらっしゃい」と返事を返すと、大きな手がふわりと頭を撫でてきた。
いつもと変わらぬ優しい手は、今日もあたたかい。
頭を撫でられるたびに、子供扱いしないでと文句を言うことが度々あったが、それは口だけだ。本当は、エルヴィンに頭を撫でられると嬉しくなる。
褒められているようで、くすぐったくて、この手が大好きで。
再び立ち上がったエルヴィンは、一度も振り返ることなく足を進ませ、リフトから壁外へと下りて行った。
姿が見えなくなった途端に不安が押し寄せ、出て行ったっきり帰って来ないんじゃないかと考えてしまう。……ペトラやナナバさん達のように。
エルヴィンの立ち去った場所を食い入るように見つめていると、リヴァイが背中に、ハンジさんが頬に、手を添えてきた。
今俺達に出来ることをするぞ、そう告げてくるリヴァイは、上着を脱ぐなりハンジさんの顔面に覆いかぶせる。

「ぶほっ!ちょ、リヴァイ!何!?嫌がらせ!?」

「お前、さっきからこいつに触りすぎだ。遠慮も無くベタベタ触りやがって、気持ち悪いったらねぇ。弱ってるなら大人しく寝てろ」

「リヴァイに指図される理由なんて無いはずだけど!ねえ、、頭が痛いんだ、私を荷馬車へ運んだらヒザ枕してくれる?」

「いいぞ、特別に俺のクツを貸してやる。枕にすればいい」

「余計に頭が痛くなるでしょうが!」

リヴァイとハンジさんの言い合う様は、ここを壁上だと思わせぬほどに日常的で、自然と笑みがこぼれてしまうほどだ。
そのおかげで、ほんの少しだが不安の気持ちが和らいだ。
それにリヴァイの言う通り、今出来ることをしなければここへ来た意味が無いというもの。今の状況では時間を持て余している余裕など一秒たりとも無いはずだ。
何気なく荷馬車の方へ視線を移すと、せっせと負傷者の対応に当たっている兵士達が視界に飛び込んできた。
まるで自分が仕事をさぼっているような気さえし、あわててハンジさんを荷馬車へと移動させ、他の対応へと走った。
一刻も早くトロスト区へ帰還することだけを考えよう、不安は後回しである。

その後、トロスト区へ帰還した私達は、リフトで地上へと下ろされ、兵団の管理する宿舎へと移動を開始した。
重傷の者はトロスト区へ一時的に留まり、軽傷の者は上官に従い行動をしろとの指示が出る。
ウォール・ローゼ内を歩き回る巨人がまだ数体いるとの情報に、調査兵団、駐屯兵団の兵士達は休む間も無く即席の合同班を取り決め、討伐へと進出した。
人手の少ない今は、誰もが協力し合う他に術は無いという。
一方ハンジさんは元気に会話をしていたものの、時間が経つごとに傷が激痛を引き起こし、宿舎の一部屋を使って療養することとなった。
リヴァイの指示でハンジさんの看病を一任されたのだが、度々激痛に耐えきれずうなり声を上げる姿は、何度も私の心臓を高鳴らせた。とてもじゃないが冷静でいられるはずもない。
深夜を過ぎ、少々空の色が明るくなり始めた明け方、ハンジさんの額を手ぬぐいで拭いていると、外が騒がしくなり始めた。
室内の窓から外を見下ろせば、松明を持った兵士達が次々に宿舎へと足を踏み入れており、壁外から帰還したのだと知る。
「負傷者が先だ!」との指示が飛び交う中で、「道を開けろ!早急に医者を呼べ!」と一際大きな叫び声が響き渡った。
何事かと目を凝らすが、この薄暗さだ、はっきりと見えるはずもない。不安だけを渦巻かせていると、ハンジさんがうなり声を上げ始め、ベッドの側へと駆け戻る。

「ぐ……っうぅ……」

「ハンジさん……壁外へ行った兵士達が帰って来たよ」

「……エレン、は」

「うん、あとで情報を入手してくる」

「ありがと……っ、うぅ」

しばらくの間、宿舎の外は明け方と思えぬほどにざわついていたけれど、徐々に静けさを取り戻した。
ハンジさんも少し痛みが落ち着いてきたのか、苦しみながらもやっと眠りにつき、寝息をたて始める。
数時間後、朝日が窓から差し込む時間帯となった頃、扉が軽くノックされリヴァイが中へと入って来た。
ハンジさんの様子を聞かれ、今は落ち着いていると返事を返すと、何故か無言の間となり、リヴァイは溜め息を吐いた。

「……エレンは無事に帰還したぞ」

「それ、本当に?」

「冗談言っても仕方ねぇだろ。エルヴィン達はエレンを奪い返したんだ」

「そっか、そっか!エレン、帰って来たんだ……!」

「……まあ、代償も大きいがな」

リヴァイは意味ありげに「代償」とつぶやき、伏し目がちにハンジさんの寝顔を見下ろした。
(……代償って、なに)
今の一言がどうも気がかりで、何気なくエルヴィンの安否を訊ねてみると、少し間を置き、今は眠っていると返される。
後ほど会いに行っても良いかとも聞けば、「今、お前の仕事はハンジの看病だろうが」そう告げられ、それ以上は何も言えなかった。
まあ、不安ばかりに押し寄せられていたので、必要以上に考えすぎなのかもしれない。それに、今日でなくとも、ハンジさんが回復してから会いに行けばいい話だ。何も焦ることはないだろう。
無事にエレンもエルヴィンも帰還したのだと知り、心の負担が幾分か開放された。

その日の夕方、ハンジさんは目を覚ました。
まだ傷口が痛むのか、寝返りをうつだけでも顔をしかめていたけれど、翌日には上半身を起こすことも可能になり、食事もとることが出来た。
二日、三日と経つにつれ、驚異的な回復力を見せたハンジさんは少しでも目を離すとストレッチに励もうとし、私は怒りの声を何度も上げてしまうことになる。
ほら、今夜も。

「ハンジさん、寝る前に着替え、ああ!もう!また腹筋してる!」

「しまった、見つかった!……でも、いいでしょ、腹筋ぐらいさあ。身体がなまるんだもん」

「だめ。今は大人しくしてて。お願いだから」

「……けち」

「けちじゃない!ハンジさんのことを思って言ってるの!」

「ふふ!分かってるよ。ありがとう、。……ね、ちょっとこっちへ来て」

手招きをされたので、ハンジさんの寝巻を持ちながら近付くと、ふいに腕を引かれ顔をのぞきこまれた。
目の下を親指でなぞられ、クマがひどい、と告げられる。
そりゃそうだろう、ここ最近はドがつくほどの睡眠不足に襲われているのだから。
トロスト区へ来てからというもの四日が経過したが、睡眠時間は合計して十時間にも達していないはず。
それでも、睡眠時間を削りハンジさんの看病をこなせたのなら、本望だ。大切な人が苦しんでいる最中に、易々と眠りについていられるはずもない。
ハンジさんの手を掴み、「そのうちたくさん寝るから、大丈夫」そう返事をしておいた。

「うん、なら今寝よう」

「そうだね、今……え、今?」

「ほら、このベッド広いし、一緒に寝ようよ。女同士なんだし、いいでしょ」

「あの、まだ他にもやることが残ってるし、私はまだ眠れないよ」

「そんなの放っておけばいいじゃないか、ね。別に一緒に寝るからって、変なことするつもりはないし、今日は、多分……多分」

「……いろいろ突っ込みたいけど、何かするつもりなのは良く分かった。はい、おやすみなさい」

「ああああ!待って!本当に何もしないから!触りたいって常に考えてるけど、性別なんて関係ないとか思ってるけど、何もしないから!」

「うわ、ぎゃああああ!何するの!」

「大人しくして。傷口に触れたら痛いから。……ああ、のうなじ、好き……ここも好き、ここも、ここも」

必死に離れようとするが、腹部にハンジさんの腕が巻きつき、ベッドの中へと引き込まれてしまった。
いつの間にここまで力が回復したのだろうか、つい昨日までスプーンを持つのも痛がっていたのに、ハンジさんの回復力は奇行している。
というか、今しがた何もしないと言っていたはずだが、うなじに、耳に、鎖骨に、唇を落してくるのはどこの誰だ。
ハンジさんの甘え癖は今に始まったことではない。昔も、夜中に一人で研究するのが寂しいからと研究室に閉じ込められたことがある。
はたまた、実験台に縛り付けられ、うなじと背中を麻痺するほどに……いけない、これ以上思い出すのは止しておこう。
そのような少し変わった行動をする性格だけれど、そんな部分も含めて、私はハンジさんが大好きだ。
分隊長を務めるほどの頭脳と度胸を持ち、いざとなれば男を勝るほどに勇気のある行動をする。皆に頼られ、いつも堂々としている。
そんなしっかりしたハンジさんだけれど……。私の名前を笑顔で呼んでくれるときは、とっても可愛かったりする。

「ハンジさん、やめて。私怒るよ」

「ええ!?そんな!ごめん、ごめんね、怒らないで……」

「ほら、この腕、放して」

「私はの寝不足が気になってさ、ベッドに引きずり込んで無理にでも寝させようと考えていただけで」

「そのうちがっつり寝るから心配いらないよ、ありがとう!ハンジさん」

「……、本当にごめんね。私の看病のせいで、ひどい寝不足に追い込んで」

「謝罪はやめて。次にごめんって言ったら、頬っぺたつねる」

「つねってくれるの!?ごめん!ごめん!ごめん!ごめん!さあ、どうぞ!」

あまりの興奮っぷりに驚きを隠せず、持っていた着替えの寝巻を顔面に投げつけてやった。
これだけ回復しているのなら、一人で着替えも出来るだろう。

他の負傷者達の看病もしながら、恐ろしいほどに洗濯もたまり、今夜も眠ることなく走り回っていると、一人の兵士が手伝いましょうかと声をかけてくれた。
その一声がどれだけ嬉しかったか。
深夜だけれど、今から洗濯をしようと考えていることを告げれば、一緒にしますよ!と返事をくれた。
ここは調査兵団の兵舎よりずっとせまい宿舎だけに、朝方になればどの通路も人の行き来が混雑するような状態になる。井戸付近も同じく人が増えるので、今のうちに洗濯物を片付けようと考えた上での行動だ。
二人で地道に洗っている途中、兵士の方が不思議なことを言い出し、洗いかけの洗濯物を地へ落としてしまい一から洗い直すはめに。
何でも、「同期のナナバが夢に出てきてはさんを手伝えと語りかけてきて」とのことだ。どうやら、ナナバさんの優しさはこの世を去ってからも健在するらしい。
兵士の方と夜空を見上げると、とても綺麗な星空が輝いていた。
(ナナバさん……ありがとう)

数時間かけ、洗濯物を干し終えた頃には、空は明るくなっていた。
手を貸してくれた兵士の方に礼を言い、ハンジさんのいる部屋へと足を進める。まだ寝ているだろうと予想し、静かに扉を開ければ……なんと、兵服に着替え、立体機動装置の固定ベルトを装着している最中であった。

「ハンジさん!?ちょ、待って、だめ!だめ!」

「もういいの。回復したから。ジッとなんてしてられないよ。エレンやエルヴィン、ニック司祭も気になるし、そろそろ行動しないと」

「完全に回復してないでしょ!?また傷が痛み出したらどうするの!」

「痛みだしたらが助けに来てね、宜しく!」

「もう!お願いだから寝巻に着替えて、まだ仕事をするには早いよ!」

「そうも言ってられないんだ。……これからもっと忙しくなるよ」

だから今のうちにこのベッドを使ってが寝るべきだ、とベッドの脇へ無理に座らされ、クツを脱がされる。
布団をめくり、力任せに私を寝かせつけながらハンジさんは言葉を続けた。
リヴァイはエレンを含める新しい班を作り、もうしばらくすると宿舎を離れるとのこと。ここ二、三日ほどリヴァイを見かけないと思ってはいたのだが、新しい住処の下見へ行っているらしい。明日には一度宿舎へ帰還するとハンジさんは言う。
寝込んでいながらも細かな情報を得ている時点で、頭の中で現状を把握し、今後の計画を立てる仕事をしていたのだと感じた。
布団をかけてくるハンジさんに、無理だけはしないでね、そう告げると指先で頬をつつかれる。
しっかりとした足取りで部屋を後にし、廊下では、「ハンジ分隊長!体調はいかがですか!?」などと兵士達に声をかけられているのが聞こえた。
私はその後、ハンジさんの言いつけ通り睡眠をとった。驚くことに、約十時間ほど寝ていたようで、目が覚めた時は既に空が暗くなっており飛び起きたのは言うまでもない。
干した洗濯物を取り込むべく廊下を走っていると、どうも下半身がむずむずするもので、先にお手洗いへ立ち寄った。
木製の扉を開け、お手洗いへと足を踏み入れる。ランプが一つ点いており、真っ暗ではないが……夜のお手洗いは、どうも苦手だ。
さっさと済ませて洗濯物を取り込みに行こう、そう考え三つあるうちの一つの個室に入り、扉を閉めようとした瞬間。
フードをかぶった誰かに扉をこじ開けられ、片手で口元を押さえつけられてしまう。私を奥へと押し込みながら素早く個室へ侵入し、扉のカギを閉め、どういうわけか謝罪の言葉を告げてきた。

「すみません、突然、オレです。エレンです」

「んん!?」

「手を放しますので、叫ばないでくださいね」

「……っ、エレン!どうしたの、そんな、顔を隠して」

「今は監視されているので、その、抜け出してきました」

「えええ!?」

「しー!叫ばないでくださいってば!」

「ああ、ごめんごめん……。エレン、エレンなんだよね?」

「はい、オレですよ。……はあ、やっとさんに会えた」

「連れ去られたって聞いたときは、何が何だか混乱したよ」

「ほんと、自分でも意味が分かりません。結局オレの同期に巨人が四人いたことになる」

オレを含めると五人か、とエレンは薄暗い個室の中で悲しげに微笑んだ。
しかしエレンはすぐに表情を切り替え、私を真正面から見据えてくる。
何かと少々構えていると、次第に眉を垂れ下げ始め、挙句の果てには目を泳がすもので、首をかしげるしかなかったのだが。
ただ、エレンの挙動不審な態度を目の前にして、「この騒動が終わったらオレに、さんの時間を十分ください」と数日前に言ってきたセリフを思い出すことが出来た。おそらく、今がその十分なのだろう。

「エレン、十分って言ってたよね……そろそろ二分は経過したんじゃない?」

「そんな!二十分でも三十分でもいいって、さん言ってたじゃないですか!」

「お手洗いの個室に二十分以上いるのは辛いよ」

「そ、それはそうですけど」

「何か悩みでもあるの?それなら言ってごらん。もしゆっくり会話をしたいなら、個室から出てハンジさんの部屋にでも行く?」

私の言葉にエレンは唾液を二度飲み込み、こちらを真正面から見つめてきた。
相変わらず鋭く兵士らしい良い目つきをしている。

「……オレ、初めてさんに会ったとき、母さんに似てると思ったんです」

「は?お母さん?」

「母さんを若くしたらこんな感じかなって。でも、実際は全然似てなかった。外見も内面も、似てない、全く似てない」

「あらら、似てなくてごめん……」

「いやいや、どうしてさんが謝るんですか。オレが勝手に突っ走ってただけですから。でも、似てないって気付いてからも、オレはさんの姿をすぐに捜してしまって」

「そうなの?」

「古城と兵舎を往復している日々は、兵舎へ行くのが楽しみになってましたよ」

「そっか。私も、エレンと会うのが楽しみだったよ。まあ、オレの前から消えろって言われたときはショックだったけど」

「もう、それは言わないでくださいよ!あのときは……すみませんでした」

「ふふ!まあ、今となれば笑って話せるわけだし、一つの思い出だよね」

明るく振る舞い笑顔を向けると、エレンは自分の胸に手を当て、いかにも苦しいと言った表情を浮かべた。
私の表情とエレンの表情、同じ空間で会話をしているはずなのに、まるで違う。
するとエレンは、「あの、オレ、最近変なんです」と小さくつぶやき、胸に当てている手を握り締め、ほんの少しだけ呼吸を荒くした。

さんのことを考えると、身体がおかしくなりそうで」

「うそ、え、まさか、巨人化の前兆とか、そういう……?私が何か原因を作ってるの!?」

「巨人化とか、そんなんじゃなくて」

「よかった、違うのね。じゃあ、なに?どうしたの」

「何て言うかさんを想像するだけで、身体が熱くなるし、頭も痛くなる、下半身もぞくぞくして、とにかく変なんです」

「は?か、下半身?ちょっと、何言い出すの。落ち着こう、エレン、落ち着こう」

「オレは落ち着いてますよ。やっぱりこの感情って、よく女子が言ってるやつですよね。恋とか何とか」

「……最近の子って」

額にかかる前髪を指先で軽く触られ、頬に手を添えてきた。
次は何を言い出すかと思えば、「今、さんを目の前にして、触りたいし、触られたいとも思います」そうはっきりと告げられ、私は唖然としてしまうのであった。
現在、エレンは十代半ばだろう。私が十代半ばの頃、異性を触りたい、触られたいなどと思ったことがあっただろうか。……無かったと思う。
エレンの年齢からして思春期も入っているのだろうけれど、大人になろうとしているんだなあ、なんて客観的に考えてしまった。

「そこでなんですけど、あの約束、覚えてますか」

「ん、約束?」

さんが地下街に連れ去られて、兵舎に帰還した日……欲しいものがあれば言ってと、オレに言いましたよね」

「ああ、言った言った!うん、覚えてるよ」

「言葉をください。オレの目を見て、好きだと言ってください。うそでいいから」

「また何を言い出すの。うそでいいからって……そんな無責任なこと、言えない」

「言ってくださいよ、約束しただろ」

「だって、好きだなんて……もっと他のものでもいいんじゃないかな?エレンの好きな料理とか、お菓子とか。言ってくれたら準備するから」

「言葉がいいって言ってるのに、どうして話をそらそうとするんですか!?大人げないですよ!」

「ひい!そんなはっきり言わなくても!」

「ほら、言って、好きって言えよ、お願いですから」

背は個室の壁に、前はエレンに挟まれてしまい、逃げ場を無くしてしまった。
今のエレンは興奮している、全然落ち着いてなどいない。でも、ここまで自分を追い込むほどに、私のことを考えてくれていたのだと思うと……。
巨人や、仲間のことで頭がいっぱいのはずなのに、よく私のことを考える隙があったなと、逆に感心してしまう。
それに、落ち着いたところで彼が今一番欲しい言葉は変わらないだろう。

「……うそじゃないけど、聞いてくれる?」

「はい?」

「確か、エレンはお母さんを巨人に食べられて、そのときに巨人を駆逐するって心に決めたんだよね?」

「そうですけど」

「お母さん思いのいい子だね、リヴァイの言いつけも守って、草むしりも嫌と言わずに一日中してたこともあるでしょ。根性あるねえ。同期が巨人と知ったときは悩みに悩んで目を腫らすまで涙を流してさ、優しい心も持ってる。ただね、ついでを言うなら、血のついたシャツは洗濯したいところだけど」

「急に、何言い出すんですか」

「何事にも真剣になって考えて、取り組んで、自分と向き合って、少し頑固で。そんなエレンが好きだよ」

「……え」

「頑張るエレンが大好き」

「……ずるい……」

エレンはまぶたを閉じゆっくりと私に抱きついてきた。
首元に顔を埋め、「好きは好きでも、まるで子供扱いじゃないですか」と声をかすらせながら、腕に力を込めてくる。
次第に肩の部分に熱い雫が沁み込んできたので、しゃくり上げる背中を撫でてやった。何度も何度も。
幾度となく鼻をつまらせた声で名前を呼んでくるもので、そのたびに返事をするが、また繰り返すように名前を呼んでくる。
ああ、甘えたいのだな、と感づき、頭を撫で、涙を拭き取ってやりながら、精一杯甘えさせてやった。
私の行動に何を勘違いしたのか、徐々に姿勢をずり下ろすなり、胸元に顔を埋めてきたので全力で引き離したのは別の話だが。
結局エレンが泣きやむまで二十分ほどかかり、いい加減個室から出ようと話がまとまった。
エレンはカギに手をかけ扉を開けようとするが、一つ気になることがあり私はふいにその手を掴む。

「待って、エレン」

「え、はい、なんですか」

「どうして、私に気持ちを伝えようと思ったの?」

「……そりゃ、さんを愛しいって想う気持ちと、この世の中いつ何が起こるか分かりませんから、伝えれるうちに伝えておこうと考えついたんです」

その返答に、ふとリヴァイの姿が思い浮かび、胸が痛んだ。
エレンは私などよりしっかりとした考えを持っている。この世の中いつ何が起こるか分からない、全くその通りだ。
個室から出るとエレンはフードを深くかぶり直し、監視されている部屋へと戻って行った。
どうやら明日には兵舎を出て、新しいリヴァイ班の仲間達と生活が始まるのだと言う。
また、しばらくお別れとなるらしい。
「でも、オレにはこれがあるので大丈夫です!」などと言いながら、案の定汚れたシャツを懐から取り出す自信満々な態度には、いつもと同様に呆れるしかなかったが。
薄暗い廊下で、遠ざかるエレンの背中を見つめながら、ありがとう、とつぶやく。すると、こちらを振り向き大きく手を振ってきた。
(まだまだ可愛いなあ……)
エレンの姿が見えなくなったところで私も足を進めると、ふと下半身がざわついた。
そこで、お手洗いに行ったはずなのに用を足してないことに気付く。何をしているのだ、私は。
あわててお手洗いへと駆け戻った情けない自分に笑いが止まらなかった。



――「この世の中いつ何が起こるか分からない」
それが明日か、一年後か、十年後かは不明だが。ただ一つ言えることがある。

私は今を、もっと大切にするべきではないだろうか。










*NEXT*










-あとがき-
23話、ご覧くださいまして、ありがとうございます!
何やらいろいろ進展がありました……。
まずハンジさんの性別ですが、勝手ながら女性として取り上げさせていただきました。
もし、ハンジさんを男性と思って読んでいた、という方がいらっしゃいましたら、大変申し訳ございません……。
とはいえ、ハンジさんは今後も男連中に負けぬほど攻めてくると思ってくだされば良いかと思います。笑
女性同士という特権を利用していろいろ書きたいな、と考えると妄想が湧いて湧いて!すみません。
そしてエレン、ついに気持ちを打ち明けました。
もっと異常な雰囲気を出したいと思いつつ、原作のエレンがあまりに純粋で……何か、ごめんなさい。下半身とか言わせてごめんなさい。←おい
しかも、お手洗いの個室って!もっと他にあるでしょ!と自分で突っ込みました。

次回の24話で、最終話となります!
原作に追いついてしまった為、一度区切らせていただくことにしました。
24話は、エルヴィン・リヴァイ・ハンジの大人組がメインとなります。よろしければご覧くださいませ^^
ありがとうございました……!