純血人生 8





兵団の幌馬車はトロスト区からウォール・ローゼの壁門をくぐりゆっくりと道を進んでいた。
荷車に取りつけられている幌の中は食べ物や衣類の詰め込まれた木箱で溢れており、くつろげるスペースは無い。兵舎まで送迎してくださるとのことで無一文の私からすれば有り難いことではあったが、実際は荷物を運ぶついでといったところだろう。
木箱の合間でジッとしていると車輪が石へ乗り上げた途端、尻が軽く浮き上がるなりダイレクトに着地。荷車特有の揺らぎに先ほどから幾度となく耐えてはいるが、このままでは乗り物酔いをしてしまいそうな状況である。
胃からふつふつと嫌なものが込み上げてくるのを回避するべくその場から立ち上がり、前部分の幌をめくり上げ手綱をにぎる兵士に話しかけてみた。少しでも気分をまぎらわせないとどうにかなりそうだ。
兵士は青ざめた私の顔を見るなり、古い荷車ですみません、と謝罪してきた。

「懸架装置(サスペンション)がついていたら少しは快適な走行になるんですけどね」

「サスペ……え、なんですかそれ」

「道の凹凸を車体に伝わらないよう開発された装置です」

「へえ!それはいいですね」

ただ、今それを言われても苦痛でしか無いわけだが。そう心の中で毒づけば黙れとでも言うかのごとく荷車が大きく揺れ引っくり返りそうになった。
この世の中、何事にも感謝の気持ちを忘れてはいけないらしい。胃が気持ち悪……。
その後、何気ない会話をしながら道を進んでいれば、先ほどまで快晴であった空に少しずつ雲が現れ、湿り気のある風も吹き始めた。
調査兵団が壁外調査へ行っている今、できることならば悪天候は避けたいところである。足場や視界が悪くなると圧倒的に不利な状況へと追い込まれるゆえ、それに伴い深手を負う者、死者が激増するのだ。
荷車がどれだけ揺れても我慢するので雨は降らないでください、咄嗟に思いついた気持ちを空に祈る。

壁門をくぐり三十分ほど経過した頃のことだ。
後方より人々のざわつく声が次第に大きくなり始め、兵士と何事かと顔を見合せることとなる。良くは聞き取れないが少なからず悲鳴のような叫び声が聞こえたのは確かだ。
荷車の前方から側面へと移り幌をめくり上げ後方を見つめるが、声がするだけでいつも通りの光景である。何か事件が起きているのなら駐屯兵団が即座に駆け付けているだろう。そのはずなのに、後方より軍馬に乗った駐屯兵団の兵士がこちらへ向かい駆けてくる様子が見えた。あっという間に幌馬車を追い越し先へと駆けて行く。悲鳴が聞こえる方角と真逆へ行ってしまったので首をかしげるしかなかった。しかし、私の横にいる兵士は駆け抜けて行く兵士の姿を見るなり、あれは早馬だ、と意味ありげにつぶやく。
早馬とは壁の中央にいる者へ重要な伝法をいち早く伝える為の使者を乗せた馬である。
その数分後、先ほどとは違う兵士が軍馬に乗り周囲に何かを呼びかけるよう大声で叫びながらこちらへと駆けてくるので、身を乗り出し何事か問いかけた。その問いに対して信じがたい返答が告げられる。
「トロスト区の壁が超大型巨人により破壊された、トロスト区の住民は避難を開始している」そう目を見開き息を切らす兵士は、この世の終わりとでも言うかのような形相だ。再び馬の腹を蹴り、トロスト区付近の壁には近付かないでください!と叫びながら先を駆けて行った。
幌馬車の手綱をにぎる兵士は私を呼ぶなり本日二度目の謝罪をしてきた。そして、ここから先は徒歩で帰っていただけますか、と言葉を付け加える。どうやら早急にトロスト区へ帰還するらしい。
私はそれを聞いて何を思ったのか、一緒に連れて行ってくれと口走っていた。もちろん断固拒否され、その間にも幌馬車を道の端へ寄せるなり慣れた手つきで荷車を馬から取り外していく。私の声など聞こえない態度で荷車に積んでいた立体機動装置を装着するなり、身軽になった二頭のうち一頭の馬へと騎乗した。
「今は何が起きるか予想がつきません。極端に言えば、内地へ続くウォール・ローゼを破壊される可能性もある。あなたはなるべく遠くへ逃げてください」語尾を言い終えると同時に馬の腹を強く蹴り、来た道を駆けて行ってしまった。あっという間にその姿は見えなくなり、途端変な焦りが湧き出す。荷車、馬一頭、そして一人取り残された寝巻姿の私は今の状況を半分は理解し、もう半分は混乱状態にある。
壁外にはリヴァイやエルヴィン、調査兵団がいる。その皆が帰って来るはずのトロスト区の壁が破られた……。全身が震え、心臓の鼓動は頭の先まで響いてくる。
横で大人しくしている馬へ、間違ってるかもしれないけど行ってくる、そう告げトロスト区へ駆けだした。兵士とは違い馬を思い通り走らせる技術など持ち合わせていないので自力で走るしかない。

ウォール・ローゼの壁付近へ着く頃には足の感覚が無くなっていた。
幌馬車で三十分かかった道を避難してくる人の波に逆らい身一つで走っていれば倍以上の時間がかかってしまった。しかし途中から非難してくる人々がパタリと止み爽快に走れたわけだが。
壁門へたどり着くなり、避難する人々が止んだ意味を知る。そこには壁門の両端につっかえるほどの大きな荷台が出入り口を塞いでいた。進まぬ荷台に諦めた馬が尻尾を振っている。荷台の向こう側からは、通せ、邪魔だ、荷台を引け、様々な非難の声が集中していた。聞こえる会話からして、この荷台はお偉い商会のものらしい。まさに唖然だ。
巨人が侵入して来ているのだろう?今この状況は、おかしい。どう考えてもおかしいだろう。怒りのあまり荷台を押して蹴ってやった。次第に周りにいた人々も、荷台をそちらへ引け!とこちら側から押しに押し始める。それに気付いた商会の関係者は罵声を上げてきたが、更に力を込め全力で押した。それでもなかな荷台は動かない、向こう側から何人で押しているというのだ。
耳が痛くなるほどの声が飛びかう壁門であったが、突然時間を止めたかのように静まり返る。足元から感じたことのない振動が伝わってきては、一ヵ月前に壁上で見た巨人が脳裏に浮かんだ。ドシン、ドシン、と確実にこちらへ近付いてきている。
ここへ巨人が来たらどうなる、何人が犠牲になる、ゾッとしているうちにも振動は加速し次の瞬間、建物の角を曲がるなりこちらへ疾走してくる巨人が荷台と壁門の上隙間から見えた。一気に皆の悲鳴が上がる。
だが巨人は派手な音を立てながら地へと倒れ、爆風のような砂ぼこりが不気味に流れ込んできた。一瞬、兵士の姿が見えたので討伐してくれたのだろうと理解できたが、もしもあの巨人がここへ突っ込んできていたらどれだけの大惨事になっていたことか。
その後、荷台は引かれ人々は一気に避難を再開した。
私は壁門から横へと移動し避難している様子をうかがっていた。空からは大粒の雨が降り始め、額の傷に染み込みジワリとした痛みが走る。ああ、祈りは届かなかったようだ。
数分もしないうちに人の波が止みトロスト区へと足を進めたところで、誰かに肩を掴まれる。振り返れば先日壁上へと案内してくれた女性兵がそこにいた。

「トロスト区は危険です、じきに門も閉じられます」

「……すみません、調査兵団はどこへ帰ってきますか?」

自然と出てしまった言葉。
女性兵は何を言っているのだとでも言いたげな表情を向けてきたが、しっかりと答えてくれた。

「おそらく変更無くトロスト区へ帰還しますよ、そのまま巨人の討伐に加わるはずです」

言われてみればその通りだ。巨人の討伐となれば調査兵団はスペシャリストなのだから当然だろう。
帰って来る、大丈夫、帰って来るさ。いいや、無事に帰って来るなんて言い切れる?言い切れないだろう。雨音が更に追いつめるよう激しく地を叩きつけた。腹が立つ、どうして今日に限って雨が降るのだ。昨日までは晴れが続いていたというのに。
情けなく震えていると、突然背中に大きな振動と痛みが走り、前のめりになりながらも何とか持ちこたえる。後ろで女性兵が平手を突き出す格好をしていることから、私の背中を思いきり平手打ちしたのだと分かった。

「不安になっていても仕方ないでしょうが!」

「なっ、す、すみません」

「今できることをしないと。あなたは兵団のサポートをする側の人ですよね、なら避難をしたトロスト区の住民を放っておいて良いの?」

仕事は山ほどあるはずです、そう告げられ少しずつ我に返った。
我武者羅にここまで走ってきたが何をしにここへ来たというのだ、少しでもリヴァイ達がいる場所へ近付きたかったのか、一人が不安でたまらずここまで来てしまったのか自分でも良く分からない。はあ、何をしているんだか。顔をうつむかせ虚しい笑いが込み上げてくる。
女性兵は私の腕を引き小走りで前進し始めた。駐屯兵団の管理する厩舎へ連れて行かれ、軍馬を一頭引っぱり出す。即座に騎乗し後ろに私を引っ張り上げると、しっかり掴まっているよう指示された。馬は駆け出し、避難民のいる元へと向かった。

避難民のいる広場は簡易な雨避けの幕が張られており、そこには顔見知りの上官や先輩方がせっせと走り回っていた。
ここで降ろしてください、と女性兵に告げるなり転げ落ちるように地へと降りた。場に似つかぬどんくさい悲鳴を上げてしまい顔が熱くなる。
(ああ、最後まで情けない……!)

「では、私はトロスト区へ戻ります」

「ありがとうございました。あの、騒動が収まったら、いつかお礼させてください」

「嬉しい、また会いましょうね」

再び会える口実を互いに作り、今の状況を少しでも打破しようと気持ちを切り替えた。何度も頭を下げ礼を述べる私に、笑顔で手を振りその場を去って行く女性兵の姿ときたら、なんとも勇ましい。あの方と出会えただけでも感謝しなくてはならない。もしも男性だったら間違いなく惚れていただろう、なんて少なからず想像してしまった。この大変な時に不謹慎もいいところだ。
女性兵の姿が見えなくなった所で、雨に打たれ体に張り付く寝巻の裾を捲し上げながら上官の元へと走る。謝罪する間もなく、手ぬぐいを大量に運んで来いと指示が飛んできた。更には避難民へ配給する食料の量を把握し完璧に振り分けろとも指示が飛び余計なことは考える間も無く時間は過ぎていくこととなる。

日付が変わり更に数時間が経過した頃、ようやく調査兵団の兵舎へと足を進めている。
空は綺麗な星空だ。夕方には雨が止み太陽が顔を出していたので気持ちも幾分かはましになっていた。雨で濡れた寝巻は生乾きになり悪臭を放っている。いつもならリヴァイに見つかる前に着替えないと、そう焦るとことだが今日は何の感情も湧いてこない。
兵舎は静まり返っていた。以前の壁外調査で負傷した兵士は兵舎での待機命令をくだされていたはずなのに誰一人としていない。皆トロスト区へ直行したのだろう。
部屋の扉を開け、中へと入りランプを点ける。ボヤっと見慣れた空間に光が灯り、途端、床へと尻もちをついてしまった。早朝、このベッドから飛び出してからというもの……。今日ほど走りまわったのは五年前のあの日以来だろう。はあ、巨人に好き放題振り回されているかのようで、気に入らないな。
風呂へ入って汚れを洗い落したいところだが、眠気が上回り足が動かない。
上半身も支えきれず床へと倒れ込みそのまま意識を手放した。




現実へと意識を引き戻したのは聞き慣れた声であった。
起きろ、目を覚ませ、と心成しか焦る声で呼びかけてくる。薄くまぶたを開けば、頬をバシバシ叩かれていることに気付き慌てて目を見開いた。

「なに、いっ、痛い痛い!」

「どうし床で寝てるんだ、それにお前この格好、額も」

「あ、リヴァイ……は、リヴァイ?」

真っ白な頭を整理させ、現状を把握する。窓からは太陽の光がかすかに差しこんでいた、おそらく朝だろう。
昨日床へへたり込んだ後そのまま寝てしまったらしい。兵服を着たリヴァイが私を支えていることから、今帰って来たのだと想像がつく。
――ああ、帰って来たんだ。

「おかえり」

「バカ、呑気に挨拶している場合か。それにしてもお前……汗臭いな」

そうだ、風呂へ入ろうと気持ちだけはあったものの身体が動かず寝てしまったことを思い出した。これは早く風呂へ入って綺麗にならないとリヴァイが不機嫌を発動するに違いない。
風呂へ入って来る、そう声をかけ即座に立ちあがろうとすれば引き止められた。

「体、負傷しているところは」

「無い無い、額だけだから」

「一人で風呂へ入れるのか」

「入れるよ、何ともないって」

「辛いなら脱がしてやるぞ」

「真面目な顔してそういうこと言わないでくれる!」

妙に心配してくるリヴァイから逃れ立ち上がる。すると、下半身に力が入らず二歩進んだ所で再び床へと崩れ落ちてしまった。足、なにこれ……信じられないほどに重い。
素早くリヴァイに肩を支えられ、昨日の少年に引き続き介護されている気分になれた。
汚れた寝巻の足部分を捲し上げてみると、いたって普通の足が露わになる。ようるすに昨日走りすぎたせいで超絶なる筋肉痛のようなものが足に襲いかかってきているというわけか。本当に、本当に、情けない……!
少し足が疲れてるみたいで、そう誤魔化し四つん這いの姿勢を取っては、ほぼ腕の力だけで脱衣所まで進んだ。頭も体も必死に汚れを流し終えた後、足に感覚が戻るよう何度も撫でていれば歩けるまでには戻ったのでとりあえず一安心である。
風呂から上がると、扉前でリヴァイが待っており入れ換わりで脱衣所へと入って行った。あ、早く入りたかったのね。
額の手当てをし、下着姿のまま火照った体を涼ませベッドへと寝転ぶ。布団の優しい肌触りに、泣いてしまいそうなほど癒された。でもゆっくりはしていられない、今日も今日で避難民の対応に当たらなくてはならない。
窓から見える壁はいつもと変わらずそびえ立っていた。ふとトロスト区はどうなったのか、考える。また人類の活動領域を巨人に占拠されてしまったのだろうか。悔しいったら無い。
しばらくすると風呂上がりのリヴァイが脱衣所から出て来たので、トロスト区はどうなったのかと率直に聞いてみた。少し無言の間が続いたことで、やはり占拠されたのだと思い込んでいれば、奪い返したようだ、との曖昧な返答に首をかしげてしまう。破壊された穴を巨人が岩で塞いだらしい、とも付け加えられ余計に疑問が浮かぶ。
今の話だと巨人に破壊された穴を巨人が塞いだ、ということになるが、どういう意味だ。

「そのことについて、この後緊急会議がある。面倒くせぇが今日中にウォール・シーナへ行かなきゃならねぇ」

「何か、とんでもないことがあったの?」

「そういうことだ」

「そっか」

下着姿のまま髪を拭くリヴァイの顔色は、少し青白く見えた。私の心配をする前に自分の心配をしてほしい。壁外調査へ行った後、帰還するなり壁が破壊されていたのだから体力も精神も相当削られたはずだ。私など勝手に一人で動き回って疲労しているのだから恥ずかしい事この上ない。
溢れてくる溜め息をつけば、ベッドの脇へリヴァイが腰掛けてきた。

「お前、髪も乾かさずベッドで横になるな」

「今日だけ許して」

「で、その額の傷はどうした。全て吐け」

壁外調査へ行く調査兵団を見送った後に事故で突き倒された、とだけ言っておいた。突き倒してきた人物が訓練兵だの言い出すと、もしも上官のリヴァイと何がしらあった時にまずいだろう。少年の未来を考え一部は伏せておいた。
(……隠して、ごめん)
そういえば少年は無事だろうか。別れた際に壁上へ行くと言っていたが……。駄目だ考えても仕方がないだろう。彼だけではない、私を途中まで送迎してくれた幌馬車の兵士、それにあの勇ましい女性兵、今は皆が無事であることを祈るしかないのだ。
突然リヴァイの手が伸びてくるなり髪をガシガシと拭かれる。乱暴な手を押し除ければ、真上からこちらを見下ろしてくる目と合った。

「辛いことでもあったのか」

「ううん。皆無事であることを祈ってただけ」

「皆って誰だ」

「お世話になった人達だよ」

「いつ世話になった奴らだ」

「昨日トロスト区で……まあ、いろいろ」

「おい、一から話せ」

結局はベッドから寝巻姿のまま飛び出し、一度は兵舎近くまで帰って来てたものの壁を破壊された騒動からトロスト区へ走って戻り、そこで巨人を見た後に女性兵に軍馬で送迎してもらった、と昨日の一連の流れを話した。
それを聞いたリヴァイは、まさに呆れた表情をこちらへ向けてくるなり何故か優しい手つきで頬を撫でてきた。これは想定外だ。

「どうしてトロスト区まで走って戻ったんだ」

「それが自分でも分からなくて。ただ混乱してたんだと思う」

「戻ったところで何もできねぇくせに、バカな行動しやがって」

「はいはい。本当にあの時はバカでした」

少々不機嫌なオーラをまき散らしながら私の隣へと体を寝転ばせてきた。その行動にギョッとする。また一緒に寝ると言い出す気だろうか!?
腕で私の体を引き寄せては巻き付けてきたので、いつも通りの抵抗するが今日は簡単にねじ伏せられた。
半ば強制的に抱きしめられ、ただ一言。無事で良かった、そう耳元でささやかれる。
……いや、どう考えてもそれはこちらのセリフだろう。
リヴァイの胸に手を当て、無事に帰って来てくれてありがとう、言い返すかのように一言ささやいておいた。
しかし何とも言えぬ恥ずかしい空気が満ちてくるようで、締め付けられている腕から全力で抜け出し勢いよく起き上がる。さあ、仕事行くわ!などと上ずった声を発しながら服に着替え、気持ちを落ち着かせるよう水を一杯飲んだ。
帰りは遅くなるのか、いつの間にか背後へ来ていたリヴァイに問われる。避難民が大勢いるのだ、その対応をするのだから当然そうなるだろう。

「俺はしばらく帰って来れない。頼むから、無理だけはするな」

「え、しばらくってどのくらい?」

「今回ばかりは予想もつかねぇ」

「……うん、分かった」

「なんだ、心細いか?」

遠慮もなく思いっきりうなずいてやった。巨人に壁を破壊されたのは昨日だ。そんな時に、しばらく帰って来れないなどと言われたら心配にもなるし、心細く思えて当然だろう。
私の反応が意外だったのか、はは、と薄く笑いをこぼす。何が可笑しいというのか。少し睨み上げ、無言のまま部屋から出てやった。
さて、気持ちを切り替えないとだ。
兵舎を出ると、窓からリヴァイがこちらへ声をかけてきた。「気をつけてな」と。
まるで昨日と真逆のようで、壁外へ進出するリヴァイへ、いってらっしゃいと必死に声をかけた自分を思い出す。
(二人共、似たようなことしてるな)
返事はせずに手だけを振れば、振り返してくれた。

先ほどのリヴァイの行動から、私の安否を少なからず心配してくれていたのだろうと想像がついた。
お互いがお互いの無事を願っていた事実に目頭がグッと熱くなる。

後ろを何度か振り返りながら、避難民のいる元へと向かった。





*NEXT*





-あとがき-
第八話、今回は少し正直な感情をぶつける回でした。うおおお!
次回、エルヴィンが頑張る回となります。そしてあの人も……。