近頃、友人が何かにつけて「こぎつねまる」と連呼することからことは始まった。

 こぎつねまるとは、友人がはまっているゲームの登場人物の名前である。こぎつねまるがまったく来なくてびっくりだわ、などと電話がかかってくるたびに報告をくれるのだが、こぎつねまるに関しての知識がない私は変わった名前だなあ、なんて呑気に考えながら相槌をうっていた。
 友人のこぎつねまる連呼の日々が三ヶ月ほど続いたある日、私達は買い物へ行く約束をし、当日、最寄り駅の改札で待ち合わせをした。
 待ち合わせの時間は午後一時。現在、一時十分。連絡を寄越さず遅刻とは。これは飲み物の一杯でもおごらせてやる、そう愉快に考えていたのだが。それから十分、二十分、三十分。その間、時計を何度見ただろう。メッセージに対する返事もなく、三十分が経過したところで電話をかけた。電話のコールは鳴るものの留守番電話に切り替わりストレスが増す。電車に乗車中で出られないのだろうか。次第に首元に汗が浮かび始め、ハンカチを取り出し顔前で扇いだ。改札近くで客の対応をしていた駅員に電車の遅れなどが発生していないか聞いてもみたが、異常はないとのこと。携帯で路線情報を調べるが何ら異常はない。
 周囲を必要以上に見回し友人の到着を待ちわびること一時間。何かの事件に巻き込まれたのではないかと、そればかり考えてしまう。心臓がうるさい。
 このまま待っていても焦りしか湧いてこないので、友人の自宅近くまで行ってみることを決心したそのときだった。携帯が鳴り、画面を確認すると友人の名前が表示されていた。あわてて通話ボタンを押し、思わず友人の名前を呼んでしまう。「ごめーん!」と元気な声が耳の鼓膜まで響いた。あと三十分待って欲しい、そう友人は早口で言い切り、一方的に電話をきられてしまう。
 いろいろと突っ込みたいことが満載だが、何よりも一番に安堵の溜息が出た。良かった、事件に巻き込まれたわけではなかった。どうやら私の考えすぎだったらしい。
 心臓の高鳴りも落ち着き、焦りから湧き出ていた汗も引いた頃、電車から下車した友人は駆け足で改札へと走ってきた。
 顔の前で手を合わせ何度も謝罪をする友人を見つめていると、ふと違和感を感じた。目の下のくまが大変なことになっているではないか。こんなことを言うと失礼に当たるが、化粧で隠しきれていない。案の定とても眠そうな目をしているので寝不足かと聞くと、「たんとうたちがやせんからじゅうしょうで帰ってきて大変だったの」そう返事を返された。ハテナしか浮かばなかった。たんとうたちがやせんからじゅうしょう……? たんとう、担当?
 私が首をかしげていると、友人はゲームの話だと付け加え、笑いながら頭をかいた。しかしその後も「たんとう」の話をする友人にまたしても違和感を感じることとなる。
 目的地までの道中を横並びで歩きながら会話をしていたのだが、手入れをしている最中たんとうたちは甘えてくるから作業が進まない、大変なときにえんせいぶたいもじゅうしょうで帰ってくるし、昨夜からていれべやにこもっていて昼前にやっと落ち着いたのだと呆れる声で話す。
 友人には申し訳ないが、聞きなれない言葉ばかりで全てを理解できなかった。ただ、あまりにも現実味のある口ぶりに友人の横顔へ視線を向けると、見たこともない優しい表情をしていたので少なからず驚いてしまう。
 私達は約束通り買い物をし、休憩がてらお茶をした。買い物の最中も、飲み物を飲んでいる今も、友人は何度もあくびを噛み殺している。堂々とあくびをしてくれてもいいのに。
 お茶を飲み終えたところで、そろそろ帰ろうと話題をふってみた。すると、まだ夕方にもなっていないのに帰るのは早過ぎると反論されてしまうが、二人分の荷物を持ち半強制的に駅へと向かう。
 私の大胆な行動に友人は笑い出し、明るい声で礼を言われた。別れ際に、たくさん睡眠をとるよう声をかけ、手を振る。友人がおぼつかない足どりで駅のホームを歩く後ろ姿に不安がよぎったが、なんとか電車に乗り込んだようで肩をなでおろした。

 翌日、寝不足は解消されたのかメッセージを送ってみたが、その日に返事はなかった。また長時間ゲームをして更に寝不足になっていなければいいのだが。
 しかし私の不安は解消されることなく返事がこないまま数日が経った。妙に胸騒ぎがしたので電話をしてみたのだが、留守番電話に切り替わってしまう。
 今もゲームに熱中しているのだろうか。寝不足で体調を崩した可能性もあるのでは。
 友人を寝不足にまで追い込むゲームが気にかかり、何度も発言していたタイトルを検索してみた。該当のページを開くと、日本らしい和風のイメージが強いキャラクターが表示される。一人一人が刀を所持しており、戦うゲームなのかとざっくりだが思い浮かんだ。ここに、「こぎつねまる」や「たんとう」という登場人物がいるのだろう。まったくの無知である私は誰が誰だがさっぱり分からず、ただ見るだけ。ページの端には狐のようなマスコットキャラクターがひょっこり顔を出しており、どことなく可愛らしい。ぱちぱちとまばたきもしていて、この狐も戦うのかと想像していれば、「戦いませんよ」と、どこからか聞こえた。……ん、聞こえたというよりも、頭に入ってきたというか。
 先ほどと変わらずひょっこり顔を出している狐。何故かこちらを見られている感覚に襲われ気持ち悪くなりページを閉じようとした。

 そこまでが現世での覚えている限りの記憶だ。

 気づけば畳の部屋にいた。手には携帯を持っている。そして正面には先ほどひょっこり顔を出していた狐が可愛らしくお座りをしていた。ああ、ぬいぐるみだろうか。
 現状が理解できるはずもなくただただ放心していると、ぬいぐるみが喋りだした。もう、ホラーでしかなかった。目の前で恐ろしいことが起こっている。なんだ、この奇怪現象は。狐のぬいぐるみ、大切にされていたけど捨てられたのだろうか、そして怨霊が……。

「あの、主さま、聞いていますか?」

「へ?」

「ですから今説明をしているでしょう。そのような間抜け面を向けられると話しづらいです」

「あ、すみません」
 
 あれ、今、間抜け面と言われたような。
 ぬいぐるみは、こんのすけと名乗ってきた。そしてこの事態は時の政府が関わっていると大げさな発言をされ、理解できるはずもなく笑いそうになってしまう。過去を何たらかんたらで目論む奴がいて、サニワとしてトウケンのツクモガミを取りまとめ敵を倒せと言われた。難しい言葉ばかりで余計に理解ができない。
 とりあえず、今一番疑問に思うことをぬいぐるみに聞いてみた。

「ぬいぐるみさん、ちょっといいですか」

「ぬいぐるみさんではありません。先ほどこんのすけと名乗ったはずです」

「はい、すみません、こんのすけさん。あの、私頭おかしくなったんですかね?」

「いいえ、正常です。一刻も早く現状を受け入れれば良い話です」

 現状とは、ぬいぐるみが喋るこの今をだろうか。
 何と言葉を返して良いかも思いつかず額に汗を浮かばせながらうつむくと、目の前に一振りの刀が置かれていることに気づいた。
「そちらの刀へ触れてみてください」そう指示が出たので、指先で鞘の部分に触れてみた。
 途端に優しい光が部屋に現れ、桜吹雪がふわりと舞い散る。その中心に白い布をかぶった金髪の男性が現れ、人生最大の間抜け面をさらけ出してしまった。

 それからというもの、あれよあれよという間に戦地へと出向き戦いとなった。敵は骨が浮遊している異形の何かであり、現実離れをしている……どころの話ではない。鋭い牙で刃物を咥え、こちらに襲いかかってくる姿には度肝を抜かれた。あまりの気持ち悪さと恐ろしさに、岩をぶん投げて粉砕してやった。途端、足が震えだし地へ崩れ落ちてしまうのだが。
 私がそうこうしているうちに、薬研と名乗る少年が目の前に現れた。私のことを大将と呼び、太ももが輝いていた。その後も戦闘で子供たちが仲間となり、全員が太ももをさらけ出……輝いていた。すごく、まぶしい。

 夜、手入れ後に皆で雑魚寝することとなった。深夜、ふと目が覚めてしまい上体を起こそうとしたのだが。気持ちよさそうに眠る子供たちの腕が足に巻き付いていたり、腹部を枕にしていたりと、動かしてはならない状況を察知。
 大きく息を吐くと、「こんな夜中にお目覚めか、大将」そう薬研が声をかけてくれた。子供だというのに、とても落ち着いた口調で感心してしまう。ぽつぽつと会話を続けていると、見事彼は現状を受け入れきれていない私を見抜き、丁寧に己自信の説明をしてくれた。

「俺は大将に顕現された短刀だ。分かるか?」

「たんとう?」

「そう、短刀な。短い刀と書いて短刀だ」

 短刀。以前、買い物へ行った際に友人が言っていた言葉を思い出した。あのとき言っていた「たんとう」とは刀の種類のことだったのか。
 更には審神者と付喪神についても説明を受けた。今いるこの場所を本丸といい、その中で人間として存在しているのは私一人だそうだ。他の皆は人の姿をしているものの刀剣の付喪神であると、そう聞かされた。こんのすけの説明よりも難しい言葉が少なく、すんなりと言葉の意味が頭に入ってくる。その分、自分が非現実的な今を過ごしていることに改めて気付かされる次第だ。
 薬研の説明で現状を受け入れることができたかと問われれば、ノーだ。理解はできたが、受け入れることなど到底できない。
 ただ、友人が音信不通になった原因はここにあるのではないかと、疑わずにはいられなかった。おそらく友人もこちらの世界へと引き込まれたのではないだろうか。私一人がこのような事態になっている可能性もあるけれど。いいや、こちらの世界のどこかで会えると、そう信じたい。希望を持たなければどうにかなりそうだ。

 薬研と会話をしていたはずだが、いつの間にか眠っていたようで、あっという間に朝が訪れた。そして、またしても戦地へと出向く。
 その日、短刀たちが本丸内で大量の資源を見つけ出し、初の鍛刀をすることとなった。
 鍛刀とは、資源を使い刀工が名刀を呼び寄せ付喪神を招く作業のことだ。皆でたくさんの資源を鍛刀部屋へと運び、刀工の指示通り資源を配置させる。
 鍛刀が開始されると、炎が天井にまで燃え上がり、刀工は驚愕する素振りを見せた。短刀たちも炎の迫力に目を輝かせ歓声を上げる。
 すると刀工はこちらを振り向き、「初めての鍛刀だというのに……主様は全ての運を使い切ったのでは」などと真剣に言ってくるもので顔をしかめてしまった。何故そのようなことを言われたのか不明だが、とりあえず四時間待てばいいらしいので、鍛刀部屋を出て夕食の準備を始めることにした。

 本丸の台所はとても不思議だ。このような古風な場所であるというのに、流し台には蛇口がついていた。また、現世で見慣れている調味料が並んでいれば、驚くことに冷蔵庫までも台所の隅に置かれている。ただ、コンロは見当たらず薪が無造作に積み上げられている様子からして、火は自分で起こさなければならないようだ。
 今と昔が混合しているような、摩訶不思議な空間としか言い様がない。
 加えて、流し台に置かれている米、小松菜、油揚げ。カゴに積み重ねられている芋、人参。「今夜の食材です」と達筆な字でメモが残されているのを見る限り自由に調理して良いものなのだろうが、一体誰が置いたのだろうか。
 今朝もそうであった。朝食を作る為台所へ行けば、既に食材が用意されており、「今朝の食材です」そうメモが残されいたのだ。後ほど、こんのすけに確認してみよう。
 ありがたく使わせていただきます、そう食材に声をかけ米を洗っていると、背後に気配を感じた。足音も無く突然現れたかのような、妙な気配であった。水を止めながら振り向くと、今剣がこちらを見上げて立っていた。本日迎え入れた短刀の付喪神である。
 
「あるじさま、おりょうりをするのですか?」

「うん、夕食……えっと、夕餉を作るの。皆お腹ぺこぺこだろうから早く作るね」

「ぼく、おてつだいします! なにをしましょう?」

「そんな、向こうで皆とゆっくりしてて。私一人で作るから大丈夫だよ。ありがとう」

「……ぼくをきょひしないでください。おてつだいがしたいです」

 紅い瞳が陰る。途端、本能的にまずいと感じた。
 あわてて洗っていた米を置き、カゴより芋を取り出し流し台の上へと置く。

「じゃあ、お願いしてもいいかな。土で汚れている芋を水で綺麗に洗ってほしいの」

「はい! おまかせあれです!」

 両手を掲げぴょんぴょんと跳ねる姿ときたら可愛いのなんの。瞳が陰ったときは驚いたが、何とか落ち込ませずにすんだようだ。自ら手伝うと名乗りでてくれているのだから、その気持ちをそれとなく流してしまうのは失礼なことだと気付かされた。時と場合にもよるが、頼ることも必要だと覚えてこう。
 今剣の身長だと流し台に手が届かないので、適当な踏み台を用意してやった。
「あるじさま、ありがとうございます」そう礼を言いながら、嬉々と踏み台へ上っては芋を手に取り洗い始める。白い肌の小さな手。逆に今剣の手が水でふやけてしまわないか心配になってしまう。

「水、冷たくない?」

「はい、へいきです」

「爪の中に土が入らないように気をつけないと」

「だいじょうぶです、つめをたてないようにしています」

「……そろそろ疲れたんじゃない?」

「おいもさんあらいはじめて、いっぷんもたってません」

 今剣は楽しそうにくすくすと笑い、「ぼくのことしんぱいしてくれてるんですね!」と無邪気な笑顔で言い当てられた。心を読まれた気分だ。

「あんしんしてください、ぼくこうみえてせんさいをこえてますから」

「せんさいをこえてる? せんさい?」

「としです。へいあんにうたれたので、せんさいはこえてます」

「え、せんさいって、まさか千歳? 千歳ってこと?」

「はい!」

 いいや、驚かないぞ、よく考えてもみろ、彼らは刀剣の付喪神だ。そう、人間ではなく付喪神なのだから年齢はそこそこ上でもおかしくない。たとえそれが千歳だろうと……せ、千歳、千歳か。千歳ってそれ、えええええ!
 全力で頭を下げた。私ったら敬語も使わず気軽に話をしていた。ああ、常識がなっていない。

「申し訳ありません! 見た目が幼いからつい、いつもの調子で話してしまって」

「なんのことですか?」

「敬語も使わず話していたので、その」

「けいご? そんなのいりませんよ。ぼくをたいせつにしてくれるこころがあれば、それいじょうはのぞみません」

 今剣は終始笑顔だが、私は額から湧き出る汗が絶えない。千歳の今剣に芋を洗わせるなどバチが当たるのではないか。それに千歳となると身体は相当なご老体なわけで……。どうしよう、どうしよう、あとで腰痛を引き起こしてしまったら全て私のせいだ。
 どうにかして今剣を台所から遠ざける方法を考えつつ、米を炊く為、薪に火をつけようとするが、マッチを上手くすれない。千歳の衝撃から指先が震えてしまい、棒先を側面の部分に素早くすり合わせるものの、何度しても火がついてくれない。朝は薬研が手伝ってくれたのでなんとかなったが、困った。
 すると、今剣が台の上から飛び下り、私の隣へとやってきた。薪に向かって軽く息を吹きかけると、薪から火が立ち上がり始めた。……なに、今の。

「ひがほしいときはいってくださいね!」

「い、息で火をつけることができるのですか!?」

「あー、けいごいやです。さっきみたいにふつうにしゃべってください」

「とんでもございません今剣様!」

「あるじさま、ひどいです。ぼくのおねがいきいてくれないんですね……」

「う、う、うそだよ! ごめんごめん! そんな泣きそうな顔しないで!」

 結局、夕食の準備を最後まで手伝ってくれた今剣は、今のところ腰痛を引き起こすことなく元気にご飯を食べている。粟田口の短刀たちも食器を運ぶ手伝いをしてくれたのだが、彼らも相当な年齢なのだろうか。機会があれば聞いてみよう。知識として頭に入れて置かなければ。

 皆で食事を食べ終え、食器を片付けていたときのことだ。
 こんのすけが台所へ駆けつけ、「鍛刀が終わりましたよ! すぐに来てください!」そう興奮気味に声をかけてきた。
 刀工に四時間待つよう指示を受けていたことを思い出し、もう四時間経ったのか、などとつぶやきながら呑気に食器を洗い続けた。そんな私の足元をこんのすけが頭で小突いてくる。ああ、やはりぬいぐるみにしか見えない。ぬいぐるみが動くなどホラーでもあるが、ちょっと可愛いと思えてきた。
「早く、早く、食器などあとで良いでしょう!」とやけに急かしてくるので、こんのすけの勢いに押し負けてしまい、洗いかけの食器を置いた。
 小走りで鍛刀部屋へと行けば、刀工が一振りの美しい刀を差し出してきた。両手で刀を受け取ると、優しい光が部屋に現れ、桜吹雪がふわりと舞い散る。打刀である山姥切や、短刀たちが付喪神になった瞬間と同じだ。ただ、視界がかすむほどに桜吹雪の量が多く、それが顔面に吹付けられ、「ぶふぉ!」と間抜けな声を上げてしまった。

「……ふむ、そなたが主か?」

「ぐえ、ちょっと待って下さい、花びらが顔中についてしまって」

「おお、すまんすまん。俺のせいだな」

 そう言いながらゆっくりと近づいてきたその人は、私の髪へと触れ、花びらを取ってくれた。礼を言いながら顔を上げると、それはそれは美しい男性がそこにいたのでひっくり返りそうになってしまう。
 深い蒼が印象的で、瞳は吸い込まれそうなほどに妖艶。彼は三日月宗近と名乗り、柔らかな笑顔を向けてきた。

「三日月どのは天下五剣の一人なのですよ! 一人と言いますか、実際は一振りですが!」

「な、は、テン? ペン? が五円のニトリ?」

 私の発言にこんのすけは、やれやれ、と言った溜め息を吐いた。あ、今間違いなくバカにされた。

「まあまあ狐、俺の素性などどうでも良い。それよりも主、現状を説明してくれぬか。少々理解できておらんゆえ」

「そのことについては私が説明いたします」

 こんのすけは、すかさず自分が説明すると私の前に立った。こんのすけの判断は正しい。現状を受け入れきれていない私が説明するよりも、ずっといい。
 話を終えると三日月は、「あい、わかった」そうこんのすけに声をかけ、扉の方へと歩いていく。どこへ行くのか訊ねれば、扉の向こうが騒がしくて気になる、とのこと。三日月が扉を開けると、そこには粟田口の短刀たちがずらりと並んでいた。ああ、なるほど。鍛刀がどうなったのか、彼らも気になっていたのだろう。
 短刀たちは三日月を見上げて瞳を輝かせた。太刀がきた! と三日月に飛びつき大喜びだ。

「これはまた元気な。よしよし、爺は来たばかりゆえ、いろいろ教えてくれ」

「なんでも教えてあげるよ! ね、みんな!」

「もちろんです!」

 短刀たちの無邪気な受け答えに口元を袖で隠しながら優雅に頬笑む。うわあ、和やかな雰囲気……というか、彼が爺と発言したのを私は聞き逃さなかった。この方も今剣のように結構な年なのだろうか。付喪神の基準が不明だ。
 ただ、短刀たちに手を引かれ鍛刀部屋から出て行くと、段差も何もない廊下でつまずく姿を見てしまい、ほんの少し爺発言を納得してしまった。





 つづく